スポーツを通じて子供の人生を支配し、害悪を及ぼす「スポーツ毒親」が問題になっている。スポーツジャーナリストの島沢優子さんは「スポーツの現場では、コーチや監督だけではなく保護者による暴言が少なくない。コーチと親は、日本のスポーツ指導を暴走させる両輪になっている」という――。

※本稿は、島沢優子『スポーツ毒親 暴力・性虐待になぜわが子を差し出すのか』(文藝春秋)の一部を再編集したものです。

バスケットボール
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小学生を横一列に並べて平手打ちをする監督

私には、1997年生まれの息子と、その2歳下に娘がいる。すでに成人したが、小学生の時からサッカーをしていた。結婚前までスポーツ新聞社で記者だった私と、同じ社に勤務していた夫はともにサッカー担当だったからだ。

私たちがテレビでサッカー中継ばかり観ているものだから、息子は小学校にあがるとすぐにサッカー少年団に加入。まずは大きなゴールにボールを蹴り込むシュートのとりこになった。平日の放課後は、網に入ったサッカーボールを振り回しながら公園に走って行った。その姿はとても嬉しかったが、私も夫も大学までバスケットボールをしていたため、私たち夫婦はサッカーと両方をやるマルチスポーツがいいと考えた。

息子が小学2年生になった春、購入した青い線が入ったバッシュ(バスケットシューズ)を渡し「バスケもやってみない?」と、バスケット少年団の入団体験に誘った。息子が最初に好きになったのはドリブルシュートだった。トラベリングという違反行為を全く無視し、いったい何歩あるいているのかわからない具合だったが、楽しく通い始めた。

ひと月ほど経ったころ、練習を観に行った私は愕然とした。40代ほどの監督が、横一列に並んだ子どもを端から順番に平手打ちしていた。理由は「子どもたちが練習に集中できていないから」だった。怒鳴りながら腕を振り下ろす監督の背後に、青ざめた顔の息子が見えた。声も出ず入り口で立ち尽くしていた私に、監督が言った。

「大丈夫ですよ。4年生になるまで殴りませんから」