山下達郎や松任谷由実など1970年代から80年代に日本で人気だった「シティポップ」が、いま世界中で大人気となっている。『「シティポップの基本」がこの100枚でわかる!』(星海社新書)を書いた栗本斉さんは「YouTubeの台頭で日本人の知らないマニアックな楽曲を、海外のアーティストが発見できるようになった。今後、日本語のシティポップが全米1位になることもあり得る」という――。
左から大滝詠一『A LONG VACATION』、山下達郎『FOR YOU』、寺尾聡 『Reflections』のレコードジャケット
筆者撮影
左から大滝詠一『A LONG VACATION』、山下達郎『FOR YOU』、寺尾聡 『Reflections』のレコードジャケット

グラミー賞歌手のアルバムにあった日本人の名前

世界的に人気の高いカナダ出身のR&Bシンガー、ザ・ウィークエンド。彼が今年の1月に5作目のアルバム『Dawn FM』を発表した際、大いに話題となった。いや、彼が新作を発表するともちろん常に話題になるのだが、日本では別の切り口からニュースになったのである。

その理由は、収録曲のひとつ「Out of Time」である。この曲のクレジットを見てみると、複数名が並ぶソングライター欄に、亜蘭知子と織田哲郎の名前が確認できる。

シンガー・ソングライターの亜蘭知子が1983年に発表したアルバム『浮遊空間』に収められた「MIDNIGHT PRETENDERS」がサンプリングされているため、このようなクレジットがされているのだ。

この『Dawn FM』は米国のビルボード・チャートでは2位という大ヒットを記録した。これほどのヒット作に、日本人の名前がクレジットされることは、そうそうあることではない。

なぜ亜蘭知子の楽曲がサンプリングされたのか

この亜蘭知子の「MIDNIGHT PRETENDERS」は、発表当時の1983年によく知られていた曲かというと、決してそうではない。シングル・ヒットしたわけでもなく、あくまでもアルバムに収められた知る人ぞ知る一曲でしかない。

そもそもこの『浮遊空間』というアルバム自体がチャートに入るようなセールスを収めているわけではなく、亜蘭知子も作詞家としてはそれなりにヒットを飛ばして知名度はあるが、シンガーとしてはかなりマニアックな部類だろう。

「MIDNIGHT PRETENDERS」という楽曲は、今話題の“シティポップ”と呼ばれる音楽の一種である。シティポップという言葉にはさまざまな解釈があるので、明確に説明するのは非常に難しいが、直訳すると“都会的なポップス”といったところだろうか。