中国で「クマのプーさん」がヤバい理由
すこし前の話だが、フィギュアスケートの名選手・羽生結弦の演技後にファンが「クマのプーさん」のぬいぐるみをリンクに投げ込むパフォーマンスが、北京冬季五輪の際に関心を集めたことがあった。恒例であるはずの「プー投げ」は結局、北京ではおこなわれなかった。
中国側はその理由としてコロナの感染対策問題を挙げていたのだが、背後では違った見方も囁かれた。すなわち、「クマのプーさん」は習近平と外見が似ているため、中国当局はプーさんを表に出すのを嫌がったのだ──。というのである。
バカバカしい仮説に思えるかもしれないが、実際はあながち的外れでもない。なぜなら、中国のアングラ的なインターネット空間において、プーさんが習近平の隠喩として使われているのは事実なのだ。
中国では厳しいネット言論統制がおこなわれているが、反体制派の中国人ネットユーザーが作ったプーさんコラージュやこれに類するジョークは、その気になって探せばすぐに見つかる。
それらのなかでも興味深いのが、中国当局の統制を受けない海外メッセンジャーアプリ「Telegram」に開設されているチャンネル『VoP』(維尼之声、Voice of Pooh)だ。
チャンネル名はアメリカの国営放送『VOA』(Voice of America)をもじったものらしく、日本語に訳せば「プーの声」である。
登録者は2.6万人程度…「プーの声」が流す反体制娯楽情報
「プーの声」は、中国共産党体制に不都合な情報をやや不謹慎な調子で紹介したり、体制風刺的な意味を持つ「バカ画像」を紹介したりする娯楽ニュースチャンネルだ。
閲覧登録者の数は2.6万人程度と、現代世界のウェブコミュニティーの人数としては決して多くないのだが、Telegramを使いこなせる在外中国人の反体制派と、中国国内のネット規制を技術的に突破して海外サービスに接続できる中国人たちの絶対数が限られていることを考えれば、無視できる数でもない。
Telegramはセキュリティー機能が高いとされ、特に中華圏の利用者はアングラ色のあるクローズドなオンライングループを多く作る傾向がある(2019年の香港デモでもしばしば活用された)。ゆえに「プーの声」以外にも、「学習牆国」や「某科学的一個頻道」「三戦快報」など、参加者数が1万~1.5万人程度の中国語反体制チャンネルがいくつも存在している。