日本から米中に飛び火した「2ちゃんねる」不謹慎文化
過去15年ほどの経緯を観察する限り、中国のネット上のアングラ反体制カルチャーと日本のオタク的なインターネットカルチャーは、かなり長期間にわたる接触と交流が存在している(なお、私はゼロ年代末に中国のネット掲示板の翻訳ブログを運営しており、2010年に中国ネット世論についての著書を書いてデビューしているので、この分野には一家言ある立場だ)。
往年、日本のゼロ年代のネット文化を牽引していた2ちゃんねる(2ch。現「5ちゃんねる」)や、それと空気感が近いサイト(ふたばちゃんねる、ニコニコ動画など)は、やがてアメリカに影響を及ぼして「4chan」や「8kun」などの大規模掲示板群を生んだ。
本家の2ちゃんねらーたちが持っていたオタク的な雰囲気、悪ふざけやブラックユーモアを好む傾向、萌えアニメ文化との親和性とホモソーシャル気質、強い政治に対するサブカル的な関心などの特徴も、アメリカの掲示板文化に伝播した。やがて独自の進化を遂げた「4chan」からアノニマス、「8kun」からQアノンが生まれ、世界を騒がせることになった。
だが、実は中国についても似た構図があった。習近平政権が成立する前(2012年以前)の、ネット言論の自由が比較的存在していた時代に、中国の大規模掲示板群『百度貼吧』の一部のカテゴリーは、上述した2ch系文化の影響をかなり濃厚に受けていたのだ。前出の「悪俗圏」や「浪人(大翻訳運動)」などのコミュニティの母体も、そうした空気感のなかから成立している。
習近平のパロディー動画、再生回数は100万越えも
「プーの声」と関係が深い娯楽サークル「乳透社」は、日本のオタク文化の影響をかなり強く受けている人たちでもある。彼らの主要な活動は、習近平をターゲットにした侮辱的なパロディーコラージュ画像や映像を作成して、SNSや動画共有サイトで拡散することだ。
「中国をバカにする言説」は中国語で「辱華」(rǔ huá)といい、「乳」(rǔ)と同音だ。乳透社はこれを踏まえた上で、アメリカの通信社ロイターの中国語名(路透社:lù tòu shè)をもじって「乳透社」と名乗っている。なお、彼らが配信する習近平パロディー作品は「乳制品」(rǔ zhì pǐn)と呼ばれる。
乳透社の関係者がいかに日本の影響を受けているかは、実例を見れば明らかだろう。たとえば以下は、日本の音楽系Vtuber(人魚の歌姫)の海月シエルがフリー配信している「#Vtuber一問一答自己紹介」という日本語の萌え系音声に、習近平の演説シーンを切り貼りして作成された「もし習近平がVtuberだったら」という衝撃のネタ動画だ。
一部の「乳制品」動画は100万PVを上回る再生回数を記録しており、乳透社は中国のアングラ的なネット民の間で広く知られる存在だった。だが、2021年2月に系列下の2つのチャンネルがYouTube運営によって削除されている。