事態を報じた2月11日付けのRFA中国語版の記事によると、乳透社側は突然の削除について、中国当局による嫌がらせ通報が理由だとみているようだ。だが、仮に実際にそうだったにせよ、「乳制品」には削除されても当然ではないかと思えるほど悪ノリが過ぎた作品も多い。

現在、乳透社は新規のYouTubeチャンネルをスタートさせているが、いまや活動の主戦場はRumble(アメリカの右派系ユーザーに人気だという動画共有サイト)に移りつつあるという。

「乳制品」動画職人の大多数は逮捕歴あり

習近平には、「プーさん」のほかに「包子」(bāo zi:肉まん)というあだ名がある。ゆえに習近平のパロディーをおこなう行為は「辱包」(rǔ bāo:肉まん侮辱)や、中国語で同音である別の漢字に置き換えた「乳包」(rǔ bāo:おっぱい肉まん)などと呼ばれている。

今回、私は乳透社の広報スタッフのStephanie(20代、カナダ在住)と連絡を取り、彼らが「おっぱい肉まん作戦」をおこなう理由について話を聞いてみた。以下、「プーの声」と同じくインタビュー形式で紹介していこう(回答者名は「乳」)。

——乳透社の運営体制について、差し支えない範囲で教えてください。

【乳】運営スタッフはすべてボランティアで、人数は十数人。現時点では全員が中国国外にいる。過去に「乳制品」を投稿してくれた職人には、中国国内の人たちもいたんだけれど、彼らの大多数は国家安全部から逮捕や脅迫を受けて、創作活動ができなくなったんだ。現在の「乳制品」職人たちは、基本的に中国国外の在住者だ。

——なぜパロディーの形で戦うんです?

【乳】ここ数年の習近平と中国共産党の急激な暴走のなかで、普通の人間ができる戦いかたは限られている。党の政策への不満や習への反対を吐き出す方法は、パロディー動画を作ってバラくくらいしかないんだ。ただ、この方法をやっているうちに「乳包文化」のファンが生まれてきて、ネット発のサブカルチャーみたいになった。ちょうど、日本のニコニコ動画の「野獣先輩」みたいな感じになってしまった。

筆者提供
YouTube上の乳透社のチャンネル。『ご注文はうさぎですか?』『ブレンド・S』『這い寄れ!ニャル子さん』と、日本のオタク文化をモチーフにしたコラージュ動画が目立つ。

——乳透社の活動で、遊びの部分とマジメにやっている部分の比率はどのくらいですか?

【乳】50%対50%という感じかな。僕たちの目的には、娯楽もマジメな部分もあるんだ。チャンネルを開設してから、フォロワーが増えて影響力が大きくなったことで、僕たち「おっぱい肉まんマン」(乳包人士)は一種の使命感を覚えるようになった。これらのパロディー作品を通じて、中国国内で強い圧力にさらされている体制に批判的なネット民たちに、ちょっとした楽しみと希望を届けられればうれしいよ。

おこなっていることは不謹慎極まりないにもかかわらず、彼らは思ったよりも本気の反体制運動として「乳制品」の制作や拡散に励んでいるようだった。