ただ、「プーの声」はそれらのなかでも最大手で、ネタの切り口や笑いのセンスと、情報の質のバランスがいい。後述する反体制的な娯楽サークル「乳透社」とも深い協力関係を結んでいる。
一連の中国語反体制チャンネルは、私が過去の記事で取り上げた「悪俗圏」や「浪人(大翻訳運動)」などのネットコミュニティーとも、かなり近いメンタリティを持つ。
いずれも悪ふざけ的でオタクっぽい傾向を持つ若い中国人男性が中心で、従来の中国民主化運動や人権擁護運動(維権運動)とほとんど接点を持たずに活動している、独立性の強いアングラ・ネットカルチャーだ。
近年、こうした中国語圏のネット民の動きはアメリカのRFA(ラジオ・フリー・アジア)やVOA、ドイツのDW(ドイチェ・ヴェレ)、フランスのRFI(ラジオ・フランス・アンテルナショナル)など西側各国の政府系メディアの中国語版が相次いで報じており、国際的にも注目されつつある。
習近平のパロディー化は「犯罪行為」である
「プーの声」の編集担当者に連絡を取って尋ねたところ、彼らのチャンネル成立は2019年6月14日。開設の動機は「フェイクニュースの横行に反感を持ったから」だったという。以下、インタビュー形式で運営側の声を紹介していこう(回答者名は「プー」)。
——「プーの声」のコンセプトを教えてください。
【プー】中国国内のSNSやメッセンジャーソフトなどでやりとりされている政治的に敏感なやりとりを、観察・記録・収拾して「時代の浮世絵」を作ることだ。ほぼすべてが政治的な内容だから、娯楽が7割、(マジメな)政治的な性質が3割ってところかな。
——運営スタッフはどんな人たちなのですか?
【プー】詳しくは公開できないけれど、少人数で全員がボランティアだよ。中国国籍を放棄したか、近く放棄する予定の、中国国外在住者が大部分だ。配信するニュースについては、チャンネル参加者の一般投稿を受け付けるbotがある。こちらへの書き込みを、スタッフ側で精査・編集してからリリースしている。
——運営スタッフが中国の国家安全部などの脅しを受けたりした事例はありますか?
【プー】現時点では起きていない。ただ、当局関係者はチャンネルを監視していると思う。「プーさん」みたいに習近平を直接パロディー化する表現は、連中が絶対に容認できない“犯罪行為”だからね。
——「プーの声」の閲覧者たちはどんな人が多いのでしょうか?
【プー】データを見る限りはUTC+8……。つまり中国標準時のタイムゾーンにいるアカウントが圧倒的に多い。おそらく閲覧者は、中国国内から「壁超え」(注:当局のネット閲覧規制を技術的に突破すること)で接続している若者が多いんじゃないかな。現代の中国で、国家や共産党に異論を持つ人間は決してメインストリームの人間じゃないんだけどね。