わかってはいるんだけど…そして男は解約した
すると怒鳴り声がやみ、声の調子が変わった。
「あんたみたいに聞いてくれた人は初めてだよ」
ヘッドセットのずれを戻して聞いた。
「払わない俺が悪いんだけど、いつも頭ごなしに『できない、できない』って言われて、それで俺も腹が立って怒ってしまうんだよ。でも、あんたは違った。俺の話をちゃんと聞いてくれた」
ちゃんと聞いていたわけではなく、ヘッドセットをずらしていただけだが、どうやら信頼されてしまったようだ。
「またあんたと話できるか?」
「私もお話しさせてもらいたいんですが、指名を受けるということができません。今日お聞きした内容は記録にきちんと残させてもらいますので」
オペレーターにできることは、利用停止になる前に払ってくださいとお願いすることぐらいしかない。
「わかった。来月とまったら、また電話するわ」
どうせ払うなら、とまる前に払えないものだろうか。
一度頑張って期限内に払えば、支払いのサイクルが正常な形に戻る。そのサイクルを崩さないようにすれば利用停止にはならず、毎月怒って電話をかけてくるようなことにはならない。この人はオペレーターの話を聞くことができる。支払いも正常な形に戻せるはずだ。
翌月の19日。男のことが気になり、夕方になって電話が落ち着いたときを見計らい、データを呼び出し応対履歴を見てみた。オペレーターはお客との会話の内容を応対履歴に残さなければならないため、応対履歴を見れば、どのオペレーターが話をしたのかもわかる。男は予告したとおり電話してきていた。女性オペレーターが機械的な応対をしてすぐにSVに交代、SVが頑張るがさらに課長に代わり、課長はなんの話もできないまま通話を打ち切られていた。
さらにその次の月の19日。調べてみると男は電話を解約していた。