コールセンターの業務には「学生に内定を伝える」という仕事もある。元オペレーターの吉川徹さんは「私の勤務先では『大学の偏差値が高い順にかける』というきまりがあった。中には、相手の学歴によって態度を変える同僚もいた」という。実録ルポ『コールセンターもしもし日記』(三五館シンシャ)より紹介しよう――。(第3回)
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採用通知の電話オペレーター、軽い気持ちで応募すると…

ネットの求人サイトで10日間の仕事を見つける。時給1300円で9時半から17時まで。1日働いて8450円。10日間で8万4500円もらえる。

時給は決めている額より下がるが、場所が近いので交通費がたいしてかからない。長期の仕事が見つからない今やるにはちょうどいい。応募するとすぐに採用された。

勤務先は駅から10分ほど歩いた住宅地にあった。アウトソーシングでコールセンター業務を請け負っているところで、仕事は外資系証券会社の就職試験を受けた大学生に、内定の連絡をすることだった。採用されたのは私と女性の2人だけのようだ。

腰かけて待っていると、ミーティングを終えたらしいおばさんたち数人が現れ、近くの席に座る。彼女たちも同じく内定の連絡をするらしい。愛想のなさに嫌な予感がした。

「上から順番に電話していってください」

研修はないらしい。コールセンターの社員でもあるSVの男性が渡してくれたリストには、面接日らしい日付、名前、電話番号、学校名が横一列に記されている。学校名のところにはずらっと慶応大学と記載されている。どうやら大学でカテゴライズされているようだ。

「これがスクリプトです」もう一枚には話す内容が書かれている。マイペースでできそうだと感じた。

ヘッドセットをしてリストの番号に電話する。呼び出し音が聞こえ、そのまま留守番電話になる。スクリプトには「留守番電話の場合はメッセージを残して切る」とある。

「慶応大学の福沢さまでいらっしゃいますでしょうか。メリルガン証券と申します。あらためさせていただきます」

スクリプトどおりにメッセージを残し、リストにチェックを入れる。メッセージを聞いて折り返しかかってきた電話は、同じフロアの別の部署につながるようになっている。こちらはひたすら発信だけを行なう。

一生を左右するかもしれないのに…笑い混じりの軽い返事

午前中は留守番電話になるばかりだったが、午後になると本人が出るようになった。

「メリルガン証券採用担当・吉川と申します。先日は面接にお越しいただきまして、ありがとうございました。採用させていただきます。今後のスケジュールにつきましては別途お話しさせていただきますので、ご都合のよろしいときに、これから申しあげる番号にご連絡いただけますでしょうか。番号は、03–55××–××××、です。それではご連絡、お待ちしております」

折り返しの電話番号はメモしやすいようゆっくり言った。それがおかしかったのだろうか、学生が笑った。

次につながった学生は社名を言うと、

「ああ、はい、はい」

と軽く答え、

「これから申しあげる番号にご連絡いただけますでしょうか。番号は03–55××–××××です」

電話番号のところを丁寧にゆっくり言うと、

「わかりましたぁ」

笑い混じりに明るく返された(※1)

※1:明るく返すのはいいことだと思うが、就職の内定連絡を受けたときには真摯しんしさも必要ではないか。私が新潟の会社に内定を断ったときは担当者に会って話した。担当者は冷えたブドウを出し、「東京で働いても新潟県人の心を失わないようにしてください」と言ってくれた。その人の名前は今でも覚えている。こんな私は古い人間なのだろうか。

それからは留守番電話になったり本人につながったりしたが、その中のひとりが、

「は〜い、わかりましたぁ〜」

と、また笑い混じりの軽いノリで答える。

一生を左右するかもしれない内定の連絡に、なぜこんなにもリラックスしているのだろう。内定の連絡を受けるときは緊張し、自然と言葉づかいも丁寧になるのではないのか。それとも私の話し方に問題があるのか。わからないまま初日は終わった。