偏差値が下がれば下がるほど高まる「真剣度」

電話は偏差値の高いところから順にかけていくらしく、慶応大学が終わると中央大学や法政大学になり、それが終わると日本大学や駒沢大学になった。

それにともない笑われることもなくなった。それが話し方を速めたせいなのか、偏差値の違いからくるものなのかはわからなかったが、これが採用連絡における受け答えの本来の姿だろう。学生の中には採用を保留する者もいる。

「たいへん光栄なのですが、お返事は少しお待ちいただいてもよろしいでしょうか?」
「さきほどお伝えした番号におかけいただき、そのようにおっしゃっていただければ大丈夫です」
「じつは連絡を待っている会社がほかにもありまして。そちらの結果が出てから、きちんとお返事したいと思います」
「わかりました。お電話お待ちしております」

言葉によどみがない。練習していたかのようだ。今はインターネットでなんでも調べられる。第一志望でない会社から内定(※4)の連絡を受けたときの返事の仕方などもネットにあるのだろう。

※4:私にも経験がある。食品メーカーで、その会社はオーストラリアへの赴任を考えていると言ってくれていたが、内定を辞退した。今、スーパーでその会社の名を見かけると、ここに就職していたらどうなっていたかなと考えることがある。

電話を受けるビジネスマン
写真=iStock.com/jyapa
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「正直すぎる」少し心配な受け答えも…

「先日は面接にお越しいただき、ありがとうございました。採用させていただきます」
「ありがとうございます。たいへん嬉しいのですが、大事なことですので、親と相談してからお返事させていただきます」

親と相談するのは当然だが、それを前面に出して大丈夫なのだろうか。親から自立していないと思われることはないのだろうか。それともこれも決まり文句で、こう言われたら会社のほうでも見当がつくのだろうか。

「先日は面接にお越しいただき、ありがとうございました。採用させていただきます」
「そうですか。どうしようかな。外資ですよね。英語話せないと仕事にならないですよね。でもTOEICで500点以上あれば大丈夫なんですかね? それだったらなんとかなりそうなんですけどね」

もちろん、こんな質問に答える立場にない。相手は証券会社の採用担当者だと思っているが、私は一介の電話オペレーターだ。

「さきほどお伝えした番号におかけいただいて、そこで相談していただけますか?」
「それでいいですか。了解です」

内定を受けたときの言葉とは思えない軽さだが、型にはまらないこういう人間のほうが大きな仕事をするのかもしれない。