一流大を卒業したら本当に幸せなのか
この外資系証券会社は、慶応大学クラスの学生にとっては内定して当たり前の会社なのだろう。面接の雰囲気に慣れるためだけに受けている学生もいるのかもしれない。
私が就職活動をしていた30年前はバブルの時期(※6)で、内定をひとりでいくつも取るのがふつうだった。
※6:1980年代半ばから1990年代初めまでの好景気の時期。「ジュリアナ」などのディスコが賑わい、六本木には階建てのフロアのほとんどがディスコというビルもあった。金のなかった私は当時、入場料が半額になる22時や23時を待って入店し、無料の料理とウイスキーで空腹を満たしていた。
就職情報誌には「どこでもいいからまず1社内定を取る。それによって心に余裕が生まれ、本命の会社で緊張せずに力を発揮できる」といったようなことが書かれていた。大学の前で毎日のように会社説明会の案内を配り、学生から「これだけ配るってことは、よっぽど人が集まらないんだな」「練習のつもりで受けてみるかな」などと言われていた会社もあった。
しかし、偏差値で胸を張れない学生にとってメリルガン証券は、勝ち目がないと思っていた難関大学出身者と同じ土俵で競えるチャンス(※7)なのだ。
※7:以前、派遣会社から電話セールスの仕事を紹介された。私ともうひとりに獲得件数を競わせ、勝ったほうを契約社員として採用し、負けたほうには辞めてもらうと言われた。即座に「私にはできません」と断った。なんで見ず知らずの人と仕事を取り合わなければならないのか。勝っても負けても嫌な気持ちになるに違いない。どうやら私は競うことをチャンスと捉えられない性格らしい。
大手企業には学生を大学のランクで足切りして、試験さえ受けさせないところも多い。学歴社会という言葉もいまだ健在だ。
だが、一流大学を出て一流企業に入った人間が幸せかといえば、必ずしもそうではない。一流企業は給料も待遇も恵まれ世間的なイメージもいいが、仕事は厳しい。帰宅が連日夜中ということも少なくないだろう。それを考えると、給料も待遇もそれほどでなく、世間的に知られていない会社でも、自分のペースで働ければ、そっちのほうが幸せと考えることもできる。
今回の内定連絡で、鼻で笑った学生と大喜びした学生のどちらが充実した人生を歩んでいくのか、見てみたい気にさせられた。