止まると毎月欠かさず電話…怒鳴り続ける「貧乏くじ」

繁忙期が終わり(※9)閑散期に入っていた。この時期は罵声を浴びせられることもない。肩の力を抜いてすごせる時期だ。そろそろ昼休みというころ、ヘッドセット(※10)を通して聞こえた呼び出し音に、キーボードのエンターキーを押して出る。

※9:12月から1月末にかけては2カ月間ずっと忙しかった。疲労が限界まで溜まり、特別手当を出してくれないものかと真剣に思った。
※10:このときに使っていたものは大きく重く、長時間使っていると頭が締めつけられるような痛みが出た。最近のものは性能はそのままで軽く小さくなっている。

コールセンターのパソコンとヘッドセット
写真=iStock.com/inside-studio
※写真はイメージです

「なんで今月は早いんだよ! どうなってんだよ!」

いきなり怒鳴りつけられた。何を怒っているのかわからない。お客の情報を出そうにも、怒鳴るだけでこちらの話を聞いてくれない。

「お客さまの携帯番号とお名前をおっしゃって……」
「うるせんだよ! なんで今月だけ早いんだよ! どうなってんだよ!」

怒鳴り散らしている。

「携帯番号とお名前をおっしゃっていただかない限り、なんのお話もできません」

そう繰り返すと、怒りながらも教えてくれた。

情報を呼び出せば、個人の属性や契約期間、支払い状況、これまでの応対履歴(※11)などさまざまなことがわかる。29歳の男性で、未払いで利用停止になると怒って毎月電話してきている人だった。内容もヘビー級だ。オペレーターでは解決できず、SVに交代し、それでもダメで課長を電話に出させて怒鳴りつけている。応対時間も毎回1時間を超えている。貧乏くじを引いたとわかった。

※11:お客と話した内容の記録。これを見れば、誰がいつどんな話をしたかがわかる。履歴がない人はこれまでに一度も電話してきていない人で、履歴が数ページにもわたっている人は一筋縄ではいかないたいへんな人。

だが、今はまだ利用できているはずだ。なぜ、今回に限って利用停止になる前にかけてきたのだろう。怒鳴り声を聞き流しながら調べてみると、利用停止日を記載した手紙が2日前に発送されていた。

「今、私のほうでも確認しましたが、利用停止のお手紙が届いてますよね」
「そうだよ! なんで今月は19日なんだよ! 先月までは20日だっただろう! なんで今月は早いんだよ!」

怒っている理由がわかった。利用停止日が1日早まったのだ。

システムの問題なのに…怒りの矛先はオペレーターへ

利用停止のスケジュールはコンピュータが決めている。判断基準はお客のランク(※12)だ。

※12:判断基準はお客のランク……このランクは利用停止日を決められる際の基準となるだけで、ランクによって料金が優遇されたり、サービスが違ったりするわけではない。

Aランクは、ドコモの指定した引き落とし日に口座振替やカードで支払っているお客である。Bランクは、残高不足などで引き落としができなかった場合、翌月に再度の引き落としで支払われるお客。Cランクは、支払い期限内に請求書でコンビニやドコモショップなどで支払っているお客。Dランクは、支払い期限がすぎたあと、コンビニやドコモショップなどで支払っているお客。Eランクは、利用停止後に支払ったお客、である。

Aランクのお客の払いが遅れて利用停止日が設定されたとしても、その日付はDやEランクのお客より10日から2週間遅い翌月の初めごろだ。

これに対し、DランクやEランクのお客は、その月の20日ぐらいから電話がとまりはじめる。この人の場合は何度も利用停止になっているため、日にちがさらに1日早まったようだ。

「利用停止の日は機械が決めていまして、こちらではどうすることもできない(※13)んです」

※13:こちらではどうすることもできない……システム上の決めごとなので力になりたくても何もできない。お客もわかっているが、怒りの持っていき場がなくオペレーターに向かって怒るのかもしれない。

「それじゃあ機械をなんとかしろよ! こっちはこれまで20日だったから今月もそのつもりでいたんだよ! 19日だと電話を使えない日が1日増えるんだよ! 仕事で使ってるんだよ!」

お客の怒りをただ聞いているしかなかった。通話時間は30分が経過した。みんな昼休み(※14)に行ってしまい、グループで残っているのは私ひとりだ。通常はSVだけは残ってくれるが、日曜日の今日は2人いるSVの両方が運悪く休んでいて、もうひとつのグループのSVはどこにいるのか姿が見えない。ひとりでどうにかするしかなさそうだ。大声で怒鳴られ続けて耳が痛くなったので、ヘッドセットを耳からずらして、怒鳴り声を外に逃がすようにしていた。

※14:昼食は休憩室で食べるか、外に食べに出るかのどちらかだった。業者が300円の弁当を売りに来ており、私はそれを買って公園で食べることもあった。