東京・新大久保に元AKB48の内田眞由美さんがオーナーを務める焼肉店がある。開業当初は「アイドルに会える焼肉店」と話題になったが、3年目には業績は下降。しかしそれでも今年4月で開業9年目を迎える。「5000万円の借金」で開業したという異色の焼肉店は、なぜ成功したのか。フリーライターの伏見学さんが取材した――。

売り上げは8~9割減…コロナ禍でも店を開け続けた本当の理由

食事やお酒が好きなビジネスパーソンであれば、誰しもなじみの店の一つや二つはあるだろう。そこへ足を運ぶことで日々の仕事の疲れを癒やしたり、気心知れた仲間たちとバカ笑いをしたり――。

しかし、そうした人々の楽しみを新型コロナウイルスが奪い去った。

コロナ禍で多くの飲食店が休業・閉業を余儀なくされたことで行き場を失った人は多い。一方で、行政からの時短要請などに従って必死に営業していても、客足が途絶えてしまった店は少なくない。この2年もの間、双方とも苦しんでいる。

東京・新大久保にあるこの焼肉店もそうした状況が続く。コロナ禍の影響で売り上げはそれまでの8~9割減に。来客数が10人未満の日もざらにある。それでも、歯を食いしばってシャッターを上げている。

常連客である男性の一人(51)はこう口を開く。

「お店に来てもお客さんが少なくて寂しい日は、安いお酒で申しわけないけど、ボトルを入れたりしています。長く通っていれば情が湧きますから、微力ながら応援したいとは思っています」

一人でやってきて焼肉メニューを数皿と、ボトルの焼酎を飲み、2時間ほどして店を後にする。周囲のテーブルを見渡すと、同じような個人客が何人もいる。

“一人焼肉”の客も多い。中には食事をしながらPCを開く人も
筆者撮影
“一人焼肉”の客も多い。中には食事をしながらPCを開く人も

気になったのは、みな居心地が良さそうに、思い思いの時間を過ごしていることだ。中にはPCを開いて仕事を始めた客もいる。店のスタッフも特に用がなければ何も言わない。

「変に干渉され過ぎないのがこの店のいいところ。適度な距離感がいいんです」と、先ほどの男性客が教えてくれる。