IWAは元アイドルと社会との接点づくりの役割も果たしている。

彼女たちの大半は10代で芸能界に入る。グループを卒業した後、それまでアルバイトすらしたことのない人間が社会で生きていくのはそう簡単ではない。IWAで働くことが、社会に出ていく自信をつけるための良い機会になっている。現にIWAで経験を積んだのちに、一般企業に就職したり、起業したりするメンバーもいる。

野中さんもその一人だ。3年間アルバイトとして働き、独り立ちを決意した。18年1月から興味のあった美容系の会社に入り、オフィス事務や店舗スタッフの仕事をこなした。その後、19年に福岡県北九州市でエステサロンを開業した。

他方で、アイドル出身だからこその武器が彼女たちにはあった。コミュニケーション能力にけているのだ。野中さんが補足する。

「お客さんの様子を見て、話しかけたり、逆に放っておいたりしていますね。できるだけ孤独を感じさせないようにはしています」

できるだけ孤独感を与えないようにしている
筆者撮影
できるだけ孤独感を与えないようにしている

スタッフと客が生み出す相乗効果

この絶妙なバランスがお客さんに居心地の良さを提供している。

野中さんをはじめ、彼女たちは特段意識しているわけではなく、店から指導されたわけでもなく、こうした対応が自然体でできてしまう。また、時には元気を与える存在にもなる。アイドルグループで培った経験がIWAで遺憾なく発揮されるのだ。

それに客は喜び、また店に来ようとなったり、別の客を連れてきたりする。顔なじみの客が増えると、彼女たちスタッフもより楽しく仕事ができるようになるといった相乗効果も生まれた。そうしてつくられた店の空気感が原型となり、いつしか全員にとっての居場所に変わっていった。

結果として、元AKB48のメンバーたちが働いてくれたことは、IWAにとっても幸運だった。とりわけその先駆けとなった野中さんの存在は、内田さんにとっても大きなものだった。

「それまでは普通のお客さんにどう接していいか困惑している面もありました。一人だったら眞由美もちょっときつかったはず。みちゃ(野中さん)が入ってくれたから、精神的にも落ち着いた」と、店長の裕美さんは思い返す。

これについては内田さんも同意し、オーナーとしての責任感も強くなったという。「友だちが働いてくれているのだから、無責任なことはできません。店を守らなくてはという自覚はできました」。