「攻撃されるわけがない」危機を招いた思い込み

読者の皆さんは日本語訳が間違っているのではないか、と疑われるかもしれないが、翻訳は間違っていない。ブダペスト覚書によって露英米が約束したことは、この程度である。

つまり、実際にウクライナを攻撃しないこと以外、露英米には何の守るべき義務もない。この程度の文書が、世界第3位の核戦力が放棄された「代償」である。「安すぎる代償」または「ただ同然」という言い方はあるが、実際は「同然」ですらなく、まさに「ただ」なのである。

当時の国際情勢においては、ウクライナが武力攻撃を受けるはずがないのは常識だったので、ウクライナの無能な権力者はこの「ただ」の代物を「安全を保障された文書」として受け入れた。覚書の詳細を知らないウクライナ国民の多くも、これでウクライナの安全が保障された、と思い込んでしまった。

しかし、英米は仮に何かがあってもブダペスト覚書の文書からウクライナを守る義務が生じないように文面を作成していた。

英米は覚書の約束を「守っている」

そして覚書の署名から約20年経った2014年、ロシアが現実にウクライナを侵略した。

ロシア軍はウクライナ南部のクリミア半島と、東部のドネツィク州、ルハーンシク州の一部を占領し、ようやく多くのウクライナ人は、ブダペスト覚書は何の意味もない出鱈目な文書であることを理解した。

とはいえ、この理解はまだ十分ではない。多くのウクライナ人は「ウクライナを助けようとしない英米もまた、ロシアと同じくブダペスト覚書に違反している」と勘違いしている。それはこの覚書の酷さ、つまりウクライナが引っかかった詐欺の酷さをまだ十分に理解していないことを意味する。

実際にブダペスト覚書に違反したのは、ロシアだけである。ロシアというのはいつ、どこでも約束を破る国であり、「約束を破るために約束をする国」なので今さら驚くことはない。

しかし、この状況において最も酷いのは、英米が同覚書の約束を「破っていない」という点である。

星条旗で覆われた、米軍のパレードをする軍人たちの足元
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英米が約束を破っているならまだよい。この場合、ウクライナは明確な保障を得られたのに保障義務のある国が約束を守らず、合意違反だったということになる。ウクライナは堂々と「英米はロシアと同様、約束を破った」と言う権利がある。

しかし、英米は最初からウクライナを守る義務がなく、覚書「4」に書いてあるとおり、ウクライナがロシアから侵略を受けたときに、英米は「国連安全保障理事会において」ウクライナを支援する要求をした。

すなわち「安保理において拒否権を持つロシアの存在が、ウクライナ支援を不可能にする」というのはまた別の話である。つまり、英米は覚書を「守っている」のだ。

したがって、ウクライナは自国に核兵器を放棄させたイギリスやアメリカに対し、「ウクライナを守る義務を放棄した」と文句すら付けることができない。英米には最初からその義務がなかったからだ。「ブダペスト覚書」とは最初から仕組まれた詐欺であり、冷酷にもウクライナ人としては騙された当時の指導者達の愚かさを悔やむしかない、ということだ。