「覚書」――それは端から守る気がない約束

この一見、安全を保障する合意に映るが、実質は何も保障しない代物の名称は「ブダペスト覚書」(英語名はBudapest Memorandum)、正式名称は「核不拡散条約の加盟に際し、ウクライナの安全保障に関する覚書」である。1994年12月5日にハンガリーの首都ブダペストで、アメリカのクリントン大統領、イギリスのメージャー首相、ロシアのエリツィン大統領、ウクライナのクチマ大統領によって署名されたものである。

首都ブダペストのドナウ川岸辺、コシュート・ラヨシュ広場に位置する国会議事堂
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名称からして、ただの「覚書」(Memorandum)であり、最初から何の法的拘束力もないことが分かる。つまり、ブダペスト覚書の条項を破っても国際法違反にはならない。

国際関係において、法的拘束力のある国際条約ですら破られることが多々ある世界の中で、「条約」よりずっと弱い、最初から拘束力のない「覚書」など、守られるはずがない。

あまりにも“軽い”覚書の中身

しかし形式はもとより、その中身も、明らかな詐欺そのものであった。以下、「ブダペスト覚書」の内容である。

「ウクライナ、ロシア連邦、グレートブリテン及び北アイルランド連合王国、アメリカ合衆国は、ウクライナが非核国として核不拡散条約に加盟することを歓迎し、決まった期限内に国内にあるすべての核兵器を処分するというウクライナの約束を考慮し、冷戦終結を含め、大幅な核戦力の軍縮を可能にした、全世界における安全保障状況の変化を強調し、以下のことを確認する。

1、露英米は、ウクライナの独立、主権、現在の国境を尊重する義務を確認する。

2、露英米は、ウクライナの領土統一と独立に対し、武力威嚇及び行使を控える義務を確認する。また、自衛及び国連憲章に定まった場合以外に3カ国の兵器がウクライナに対して使用されることはない。

3、露英米はウクライナの主権内の権利を侵し、自国の利益に従わせることを目的とする経済圧力をかけることを控える義務を確認する。

4、露英米は、ウクライナが侵略被害者となった場合、もしくは侵略の威嚇を受けた場合、国連安全保障理事会に対し、至急、ウクライナを支援する行動を起こすことを要求する義務を確認する。

5、露英米は、自国及び同盟国が攻撃を受けた場合を除き、核不拡散条約に加盟している非核国に対し、核兵器を使用しない義務を確認する。

6、ウクライナと露英米は、以上の義務遂行について、疑問が生じた場合は、話し合いを行う。

この覚書は署名された瞬間から有効になる」

いかがであろうか。