※本稿は、宮台真司・野田智義『経営リーダーのための社会システム論』(光文社)の一部を再編集したものです。
なぜ女性たちは「まともな男がいない」と口をそろえるのか
【宮台】性的退却の背景に何があるのかについて踏み込みます。僕の聞き取りでは、性愛を避ける男性の多くが「コストパフォーマンスが悪い」と言います。
勉強や仕事に追われて忙しい日々、女性と交際するとお金がかかるしトラブルも起きる。ささいな痴話ゲンカで関係が崩壊したりするからリスクマネジメントも大変。ならば、アダルト映像やアダルトゲームで、システム世界から便益をいいとこ取りしたい。そんなふうに損得勘定で性愛をとらえる男性――僕の言い方では「損得化したクズ」――が、増えました。
次に、女性たちです。彼女たちはなぜ性愛を避けるようになったのか。多くの女性が口にするのは、「まともな男がいない」「経験を通じてうんざりした」という理由です。これはもっともです。
ワークショップを通じた観察では、「女性の喜びを自分の喜びとして感じ、女性の苦しみを自分の苦しみとして感じる能力」を持つまともな男性は200人に1人だから、女性が自分に告白してきた男性とつき合っても、たいていはイヤな経験をして終わります。
パラメータ(周辺条件)についても考えます。今ほどではなくても、昔もクズな男性が一定割合いました。でも女性が生きていこうとすれば、男性を見つけて結婚するしかありませんでした。今は、仕事で成果を出したり資格を取得したりしてステータスアップを図れます。クズ男性とつき合うぐらいなら、ステータスアップに時間を使う方が合理的になります。
男性も女性も恋愛をコスパで考えるようになった
【宮台】これらすべてを踏まえて単純な図式にすると、まず、男性が損得化して、一部が性的に退却し、次に、女性が損得化した男性とつき合って懲りて、一部が性的に退却した、という展開になっています。概略そういう形で、性愛からの退却が進んでいったのだと考えられます。
そもそも性愛関係は、喜怒哀楽を含めた包括的・全人格的なものです。僕たちは性愛を通じて、自分が根源的に肯定される体験を得ました。しかし、性愛が属性主義に陥るほど、ほかに代替できない喜びは、小さくなります。だから、属性主義を背景に、男女がともに性愛をコストとベネフィットという損得勘定に帰着させてしまうのは、実は自然な成り行きです。