マッチングアプリで「男女の絆」をつくることは難しい

【宮台】これに対し、マッチングアプリを使う場合は、最初に属性で検索を設定し、スマホ画面に次々に表示される異性の写真をどんどんスワイプしては、どんどん「いいね」ボタンを押していきます。すると、下手な鉄砲、数打ちゃ当たるで、相手からも「いいね」ボタンが押され、「両思い」ということで、カップルが成立したことになります。

でも、そんなふうにしてマッチングアプリで出会っても、カップルが絆をつくることは難しい。なぜか。第1に、カップルの大半は、互いに相手を入れ替え可能だと見なし続けてきたというクセがあり、第2に、互いに「相手はまだマッチングアプリを使っているかも」と想定しながらつき合うことになるからです。男性は、相手の女性がもっとスペックの高い男性を見つけたら、そっちに行くだろうと思うし、女性も同じように思うわけです。

マッチングアプリは便利なシステムですが、人間が求めているはずの全人格的な性愛関係を回復させるものではなく、むしろ属性主義や損得化を加速させる方向で確実に機能しています。僕には出会い系業者やマッチングアプリ業者の知り合いが多いので、全人格的な性愛関係をもたらせるようなアーキテクチャの実装をお願いしてきていて、ユーザーの資格認定を含めたいくつかのアイディアが現実化していますが、今のところメジャーになれません。

ネットはリアルな人間関係を補完しない

【野田】宮台さんは性愛の専門家でもあるのですが、今の話は性愛を超えて、現代のインターネット社会における人間関係を理解するうえできわめて重要なものですね。

近年はさまざまなネットサービスが発達、普及しています。そこから生まれたコミュニティは、僕たちが失ったホームベースの代替として人間関係を補完してくれると考えている人も多いかもしれません。しかし、ネットはリアルな人間関係を補完しません。むしろ、ネットコミュニティの広がりによって「人間関係の空洞化」が進むというのが僕らの結論です。

その話に入っていく前に、若者を対象に実施されたネットサービスに関する意識調査の結果をいくつか挙げておきましょう。

2016年度に内閣府が15~29歳の男女を対象に実施した「子供・若者の意識に関する調査」で、自分の「居場所」について尋ねたところ、「インターネット空間」を挙げる人の割合はかなり多く、「そう思う」と「どちらかといえばそう思う」を足すと60%を超えていました。