2021年下半期(7月~12月)、プレジデントオンラインで反響の大きかった記事ベスト5をお届けします。社会部門の第2位は――。(初公開日:2021年10月7日)
宮内庁は2021年10月1日、眞子さま(29)と小室圭さん(29)が同月26日に結婚されると正式発表するとともに、眞子さまが「複雑性PTSD」と診断されたことを明らかにした。精神科医の和田秀樹さんは「会見に同席した精神科医は『結婚について周囲から温かい見守りがあれば、健康の回復が速やかに進むとみられる』と発言しましたが、これは国民に誤解を与え、現実に複雑性PTSDの症状に苦しむ虐待サバイバーに脅威を与えるおそれがある」という。その理由とは――。※内容は掲載当時のものです。
眞子さまのお印の木香茨
写真=iStock.com/Fanliso
眞子さまのお印の木香茨(もっこうばら)※写真はイメージです

精神科医が腰を抜かすほど驚いた「眞子さまは複雑性PTSD」

宮内庁は1日、秋篠宮家の長女・眞子さま(29)が「複雑性心的外傷後ストレス障害(PTSD)」と診断されたことを明らかにした。

そのため、この病名がネット上で一気にトピックワードとなった。

この病名については、秋篠宮家の側近部局トップの加地隆治皇嗣職大夫が眞子さまの病状について切り出し、精神科医で、公益財団法人「こころのバリアフリー研究会」理事長の秋山剛氏が会見に同席して「長期にわたり誹謗ひぼう中傷を体験された結果、複雑性PTSDと診断される状態になっておられる」と述べた。

1991~94年にアメリカに留学して以来、この疾患に向き合ってきた私は、宮内庁のその後の説明を聞くにつけて、腰を抜かすほど驚いてしまった。

なぜなら、複雑性PTSDとは虐待のような悲惨な体験を長期間受け続けた人に生じる心の病であり、治療も大変困難なものとされているからだ。

1970年代、ベトナム戦争で兵士が受けた心理的後遺症やレイプトラウマの研究が進み、1980年に発表されたアメリカ精神医学会の診断基準第3版(DSM-3)に「PTSD」という病名が採用された。

その後もトラウマ研究が進み、児童虐待のような長期反復型のトラウマ体験の場合は、もっと深刻な病状が生じることがわかってきた。

当時のアメリカにおけるトラウマ研究の第一人者であるジュディス・ハーマン(ハーバード大学准教授)は、その主著と言える『心的外傷と回復』(みすず書房)において、複雑性PTSDという病名を提起した。

複雑性PTSDの症状…自傷行為、性的逸脱、解離症状、希望喪失

ハーマンが提起し、94年に発表されたアメリカ精神医学会の診断基準第4版(DSM-4)の「複雑性PTSD」に加えることが検討された症状には以下のようなものが列挙された。

1:感情制御の変化(自傷行為や性的逸脱など)
2:意識変化(解離症状など)
3:自己の感覚の変化(恥の意識など)
4:加害者への感覚の変化(復讐ふくしゅうへの没頭だけでなく、加害者を理想化することもある)
5:他者との関係の変化(孤立・ひきこもりなど)
6:意味体系の変化(希望喪失など)

実際、私の留学中も虐待の被害者の患者をかなりの数で診たが、この指摘には心当たりがある。ここで注目したいのは、2の項目にある「解離」という症状だ。

解離は、自分の忌まわしい記憶をふだんとは別の意識状態に置くことで生じると考えられている。要するにトラウマ的な出来事を覚えている意識状態と、普段の意識状態は、別の意識状態になっている。

そのため、その人は、トラウマ的出来事を覚えている意識状態になったときのことは覚えていないし、その意識状態は、普段の意識状態と連続性をもたない。

解離性健忘の場合、その解離状態の時の言動を覚えておらず、かなりの暴言を吐いても、犯罪的な行為(万引きや暴行など)や性的逸脱を行っても、それを覚えていない。

別の意識状態になったときにアイデンティティ(自分が子どもか大人かとか、ふだんの名前や役職など)まで変わってしまう状態は多重人格と呼ばれてきたが、DSM-4では解離性同一性(アイデンティティ)障害と呼ばれるようになった。