「とにかくさせてみる」ことが大事

【宮口】このことがあって以来、何かあったら、「教える」のではなく「とにかくさせてみる」ことをモットーとしています。教える側の人間は、自分はすでに学んでいることを教えるから、子どもたちがわからないとどうしても「なぜわからないんだ」となってしまいがちなんです。子どもたち同士、わからない視点で教え合うから、わかるのかもしれません。

【養老】教えるのが難しいのはそこですね。私自身が「わかった」ことについて、どうしてわかったかがわからない。あとから理屈を記述していく感じです。数学の証明問題など、その典型ですね。だから教師にはなれないと思っていたくらいです。

それでも解剖学を教える立場になったので、「学生にはとにかく学ぶ機会を与えるのみだ」というふうに考えて、授業に臨みました。特に解剖の場合は、自分でやらなければ何も身につきませんからね。

モチベーションがないと始まらない

【養老】大学で解剖を教えていたころ、口頭試問をやっていて、気づいたことがあります。できない学生とは、モチベーションがない学生だ、ということです。誰かに言われて医学部に来たのか、最初から医者になる気がないのではないかと疑われるような学生の成績が悪い。

いつだったか、東大の医学部生のなかに国家試験に落ちる者が出てきて、教育委員会が学部の教育との相関関係を調べたことがあるんです。結果、わかったのは、私の試験で落第点を取った学生が、ほぼ全員、国家試験に落ちている、ということでした。

セミナーに参加するアジアの医療従事者
写真=iStock.com/kazuma seki
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解剖は面倒くさい作業です。記憶しなければならないことがたくさんあるし、しかも理屈があまり通らない。頭のいい子というか、理屈の好きな子には向かないんです。本当に、「医者になりたい」というモチベーションがないとやってられないんですね。でも逆に、医者になるモチベーションをきちんと持っている学生が、すごく一生懸命に取り組む授業でもあります。なぜかというと、解剖は臨床に近いですし、人体そのものを扱います。緊張感もある。医学部生にとって、やる気の有無がもっとも端的に表れた科目が、解剖でしたね。

ともかく、学力を伸ばす決め手になるのは、やはりモチベーションですね。