やる気を引き出す3つの要素

【宮口】本当にそうだと思いますね。私は、やる気を引き出すためには3つの要素が必要だと思っていまして、それは「見通し」「目的」「使命感」です。実はこれ、私自身の体験から導き出したことなんです。

私は医師になる前に五年ほど、建設関係の会社で公共事業にともなう環境アセスメントの仕事をしていました。簡単に言うと、たとえばトンネルを掘るときに、トンネルができることで地域住民に環境面で何か不具合が生じるかどうかを調べる仕事です。

最初のうち、いくら上司から「意義のあるすごい仕事だよ」と言われても、全然ピンときませんでした。仕事の全貌が見えなくて、見通しが立たず、何から手をつければいいか、わからなかったのです。

これはもうやる気以前の問題。見通しが立たない、目的がわからないのでは、やる気など持てるわけがないのです。

それでも進めていくうちに、だんだん仕事の全貌が見えるようになり、何のためにその仕事をやるのか、目的もわかってきました。それで「よし、がんばろう」という気持ちにはなるものの、今度は「やりがい」を感じることができない。私にとってその仕事は、「これに人生をかける」と思えるほどの使命感が持てなかったのです。

本当に困っている子は精神科に来ない

【宮口】この気持ちは、精神科の医者になっても変わりませんでした。

病院で外来をやっている中で、家庭や学校でうまくいかないことがいろいろあって困っている子どもたち――なかでも非行化するような子どもたちの多くは、そもそも病院にほとんど来ないんです。逆に言えば、病院に来るのは、保護者や誰かしら支援者がいて、連れてきてもらえる子どもたちだけなのです。

病院に来れば、そこで医療は成り立ちます。でも連れてこられない子どもたちの中には、さまざまな問題行動を起こすようになり、しまいには何かの事件の加害者になって警察に逮捕されたりするケースもあります。それで少年鑑別所などに収容されると、初めて「ああ、この子にはこういう障害があったのか」と気づかれるようなことがあると知りました。

路上で眠っている若いホームレスの男
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無力感に囚われると同時に、どうすることもできないのに、「こうすべきではないか、ああすべきではないか」と評論家のようになっていく自分に嫌気がさしました。