セブン&アイ・ホールディングス名誉顧問の鈴木敏文さんは、セブン‐イレブンでさまざまな試みを成功させ、「小売の神様」と評されてきた。そこにはどんな経営哲学があるのか。鈴木さんは「私はいつも『お客様のために考えるのではなく、お客様の立場で考えろ』と言ってきた」という――。

※本稿は、齊木由香『トップの意思決定 日本のビジネス界を牽引する15人に聞く』(イースト・プレス)の一部を再編集したものです。

インタビューに答えるセブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏文名誉顧問=2018年4月17日、東京都千代田区
写真=時事通信フォト
インタビューに答えるセブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏文名誉顧問=2018年4月17日、東京都千代田区

新しいサービスは私の「思い付き」で始めている

いろいろと取材やインタビューを受ける機会はあるけれど、私はこうやってお話しするときに、どんなことを話すか、事前に準備するということがないんです。何を聞かれるかわからないのに、準備しようがないんですよね。

私の高校時代は弁論大会が非常に盛んで、みんな原稿を作ったり話す練習をしたりしていました。そういう準備も、私はしたことがない。講演にしても、座談会にしても、あらかじめ考えておくということがありません。そういうことができないタイプなんです。簡単に言えば、面倒くさがりなんです。

何か問われると、反射的に言葉が出てきます。自分の頭の回転が速いかのようなことを言っていますが、そういうわけではありません。瞬間的に思ったことを、パッと発言する。

新しいサービスを考えるときにも、「どう発想するのか」とよく聞かれますが、これも、何か特別なことを考えているわけではありません。「こういうものがあれば便利だな」という思い付きでやっているんです。

便利を実現するためのシンプルな発想

日本でコンビニエンスストアを始めたとき、最初は周囲に反対されました。「すでにたくさんの小売店や商店がつぶれていっているじゃないか」って。「こんな状況で小さな店をつくって、それが拡大していくなんてことはあり得ない」。業界の人たちは、みんなそう考えましたね。

スタートしてからも反対だらけです。例えばおにぎりを初めて売り出したときも、みんな最初は賛成しませんでした。

「鈴木さん、おにぎりは家庭で作るものだから、売れませんよ」と言われる。社内でもそういう声がものすごく多かった。「家庭で作るから安心して食べられるんだ」「誰が握ったかわからないものなんて、食べられない」と言うわけです。だけど私は、「いや、そんなことはない」と言い続けました。

買い物は毎日のことです。昼間の時間帯だけにしかできないのは不便。だったら、家の近くで、24時間いつでも買えるようにすれば便利です。

おにぎりは昔から日本にあって、みんなが食べているものです。今日も明日も、日本中どこでも食べられている。だったら、それを家庭で作るものだって決め付けることのほうがおかしい。いつでもどこでも買える状態にしたら、逆にとても便利なんじゃないか。

便利なものであれば、あったほうがいい。まったく難しい話ではありませんよね。だったら、それを実現するにはどうしたらいいか。ずっとそういう考え方をしてきただけなんです。