わが国経済に創造的破壊をもたらす可能性がある

2022年春にソニーグループ(ソニー)は、電気自動車(EV)の設計・開発などを行う“ソニーモビリティ”を設立し、EVの市場投入を本格検討すると発表した。最も重要なポイントは、ソニーが世界的な競争力を磨き上げてきたCMOS(complementary metal-oxide semiconductor、相補型金属酸化膜半導体)イメージセンサーをはじめとする画像処理半導体と、自動車の新しい結合を本気で目指していることだ。それは自動車産業に依存するわが国経済に創造的破壊をもたらし、経済の実力である潜在成長率の引き上げに資す可能性がある。

米ラスベガスで開催されたテクノロジー見本市のCESで、ソニーの電気自動車「Vision-S02」を発表する吉田憲一郎CEO
写真=dpa/時事通信フォト
米ラスベガスで開催されたテクノロジー見本市のCESで、ソニーの電気自動車「Vision-S02」を発表する吉田憲一郎CEO=2022年1月4日

ソニーはウォークマンやトリニトロンテレビ、ハンディカムなどエレクトロニクス分野で多くのヒット商品を生み出した。特に、ウォークマンは世界の人々の生き方を一変させ、わが国の経済成長に寄与した。

ただ、ソニーは何かと何かを結合して新しいプロダクトを生み出すというイノベーションの領域に踏み込むことは難しかったようだ。そう考えると、ソニーは、前例にとらわれず積極的に何かと何かの新しい結合を目指す事業運営を志向し始めたと考えられる。ソニーによる画像処理半導体などと自動車の新結合が、わが国の自動車産業、さらには産業構造にどういったインパクトを与えるかに注目したい。

EV市場に参入するソニーの狙い

ソニーが開発を進めているEV、“VISION-S”、の市場投入を本格的に検討し始めた最大の目的は、同社が“ものづくりの力”を磨いてきた画像処理半導体と自動車の“新しい結合”を実現し、新しい需要を生み出すことだろう。EV参入によってソニーは組織内外にある“ソニーはエレクトロニクスおよびコンテンツを生み出す企業”というイメージの打破を目指しているといってもよいだろう。米ラスベガスで開催されたテクノロジー見本市の“CES”にてソニーがVISION-Sの2つのモデルを展示したのは、新しい結合を目指すという決意表明だった。

その背景の一つには、新しいヒット商品の創造によって、世界の人々に新しい生き方を提供することはできたものの、その後が続かなかったという経営陣の反省があるはずだ。例えば、ソニーはウォークマンのヒットによって世界のミュージックライフを一変させたが、そこからさらに踏み込んでウォークマンとインターネット、パソコンなど、自社製品と他の機能を持つモノとの結合を実現するには至らなかった。