CMOSイメージセンサー市場で半分のシェアを持つ

その一方で、米アップルは故スティーブ・ジョブズの指揮の下でiPodやiPhoneなど音楽再生機能と他の製品の機能の結合を加速させることによって、人々の高い満足感(付加価値)を生み出し、急成長を遂げた。ヒット商品の実現を目指してジョブズが手本にしたのがソニーだった。

2012年以来、ソニーは画像処理半導体の製造技術に磨きをかけることによって、スマートフォンやデジタルカメラ、車載カメラなどに使われるCMOSイメージセンサー分野での競争力を高めた。CMOSイメージセンサー市場でソニーは約49%のシェアを持つ世界トップ企業に成長した。画像処理半導体事業で得られた資金や技術力を生かしてソニーは映画、ゲーム、アニメなどコンテンツ事業の成長も実現した。さらなる成長を目指す取り組みの一つとして、ソニーは画像処理半導体をEVと結合することによって、移動時間をエンターテイメントやビジネスの空間に変容させようとしている。

“EVシフト”という大きなチャンスが到来

ソニーが画像処理半導体やコンテンツと自動車の新しい結合を目指すために、世界経済全体でのEVシフトは大きなチャンスだ。ポイントは国際分業の加速によって事業運営の効率性向上が期待できることだ。EVシフトによって日独の自動車メーカーが磨いてきた内燃機関を中心とする“すり合わせ技術”の競争力は低下し、EVの生産はデジタル家電のような国際分業によるユニット組み立て型生産に移行し始めている。異業種の企業が自動車産業に参入する障壁は低下する。

現に、ソニーはEV生産をオーストリアのマグナ・シュタイアーに外注し走行実験を実施している。ソニーは自社に不足する自動車の安全な走行を支える製造技術を他の企業に任せることによって、一から自動車の製造技術を習得するのにかかる時間を節約できる。

他方でソニーは画像処理半導体やコンテンツの創出、高速通信技術を用いたオーバー・ジ・エア(Over the Air、OTA、無線通信でソフトウェアのアップデートなどを行うシステム)の開発に集中することができる。つまり、ウォークマンの設計・開発・生産を自社で行っていた時代に比べ、ソニーは自社が強みを持つ分野に一段と集中することができる。それは、より迅速に新しい製品を生み出し、先行者利得を手に入れるために欠かせない。