生活習慣が9割、遺伝の影響は1割
「歳ですから仕方がないですね」
そんな言葉を患者さんに言いたくないという思いで、私は老化のメカニズムと治療について研究を始めました。
これからの時代、実年齢はそれほど重要ではなくなると思います。生活習慣しだいで、実年齢よりも若い身体機能を保つことは可能だからです。
数年前までの抗加齢医学では、アンチエイジングは「生活習慣が7割、遺伝が3割」といわれていました。しかし近年では、生活習慣を改善すると遺伝子の働き方すら変わることが明らかになってきました。遺伝子は1つの細胞の中に2万〜3万個ありますが、すべてが今この瞬間に働いているわけではありません。若いときには働いていたけれども年をとったことで眠ってしまった遺伝子や、逆に老化により目を覚ます遺伝子もあります。
たとえば、若い人の肌にハリがあるのは、コラーゲン合成酵素をつくる遺伝子が若いころに発現するから。年を重ねると、今度はコラーゲンを分解する酵素の遺伝子のほうが発現しやすくなり、コラーゲンはどんどん壊れ、肌のシワやたるみにつながるのです。最新の研究で明らかになってきたのは、生活習慣を改善すると、このスイッチのオン・オフのパターンが変わり、若さを保つための遺伝子が働き出す、つまり「エピゲノム変化」が起こるという新事実です。ですから、私は「生活習慣が9割」と提唱しています。
まずは、自分の体の中で起きている老化という現象をよく知りましょう。老化を進める主要な危険因子は5つあります。
まずは、風邪やコロナウイルスといった細菌・ウイルスによるダメージが「免疫ストレス」です。紫外線や食品添加物などによって体の中のDNAが壊され体が“サビる”のが「酸化ストレス」で、現代人のメンタルを蝕んでいるのは「心身ストレス」です。偏った食生活、運動不足、不規則な睡眠といった「生活習慣の乱れ」も老化を進める大きな危険因子になります。
私たちの研究室がもっとも力を入れているのが、5つ目の因子である「糖化ストレス」の研究です。砂糖、卵、小麦粉、牛乳を混ぜて焼くと、こんがりとしたきつね色の美味しそうなホットケーキが焼きあがります。このように食品中の糖分とたんぱく質が焼けて生じる現象が、かつては“体がコゲる”という糖化ストレスのたとえでした。ただし、体内で起こる糖化は加熱によるものではありません。最近認知度が上がってきた「AGEs(終末糖化産物)」は糖化したたんぱく質の一形態です。
糖化は糖尿病、高血圧、がんなどの原因になります。特に糖尿病は万病のもとで、動脈硬化、白内障、腎機能低下など、多くの問題を引き起こします。現代日本においては、悪い生活習慣が引き起こすメタボリックシンドロームが糖化ストレスの一番の原因です。
実は、生物は何億年も前から酸化ストレスを経験していたため、私たちの体は抗酸化システムが発達しています。一方、人類がこれほどまで豊富に糖分をとるようになって糖化ストレスが大きくなったのは最近のことです。防御機構はそれほど発達していないし、メカニズムすらまだまだ解明途上にある。だから糖化ストレスは怖いのです。
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