貯めても、貯めても尽きないお金の不安。この不安の沼から抜け出す方法はあるのでしょうか。京都・両足院の伊藤東凌さんは「昔から仏教では『持てば不安になる』ということは徹底的に言われています。物だけでなく、あらゆる概念や関係性を含めて、とにかく持つことは不安につながるので、手放す生き方を推奨しています」といいます――。

持てば持つほど不安になる

確かに「老後のためにはこれぐらい貯めておいたほうがいい」とか、「これぐらい貯金がないと老後の生活は成り立たない」といったニュースはよく聞きます。多くの人が、お金を貯めるのは「安心」を手に入れるためなのでしょうね。

ライトアップされた盆栽
撮影=Hiroshi Homma

一般的な「安心(あんしん)」とは、いわゆる条件です。つまり、これだけお金があるとか、こんなに仲間がいるとか、セキュリティーのあるマンションに住んでいるとか、そういった条件によって、人は安心を得ようとするわけです。

しかし、そういう安心は、持てば持つほど不安は増してしまうものです。貯金が増えたら、これがなくなったらどうしよう、周りの友だちがみんないなくなったらどうしよう、セキュリティーが破られたらどうしよう……。そんな具合に。

昔から仏教では「持てば不安になる」ということは徹底的に言われています。物だけでなく、あらゆる概念や関係性を含めて、とにかく持つことは不安につながるので、手放す生き方を推奨しています。安心というのは幻想ですから、さっさと手放したほうがいいのです。

「あんしん」より「あんじん」を求める生き方を

そこで安心を「あんしん」ではなく、「あんじん」と読みかえてみましょう。仏教では実際にそのように読みます。私がおすすめしたいのは、この「あんじん」を求めることです。

両足院・唐門前庭の小径
撮影=Hiroshi Homma

あんじんというのは、心の軸という意味。身体的な特徴や出自など、人は生まれながらの差はありますが、まずはそれを受け止めたうえで、自分はこう生きていくんだという自分の軸を持つ。

自分の軸が定まらなければ、不安に陥ると必ず自分は先天的に恵まれていないとか、あの人のほうがすぐれているからと自分以外のものに責任転嫁してしまいます。

しかし自分の軸を持っていれば、自分本来の道を歩めるわけですから、本当の幸せや安心につながります。今のような不確かな時代に幸せに生きていくためには、「あんしん」を持つよりも「あんじん」になれるかどうかが大きいと思います。