「昇進に後れをとっている」「彼のクリエーティビティにはとてもかなわない」……。自分と人を比べて落ち込む癖を直す方法はあるのでしょうか。両足院副住職の伊藤東凌さんは「人と比べてしまうこと自体は当たり前のことであり、必要なことでもあります。大事なのは比べ方です」といいます――。

一瞬の見た目だけで比較してはいけない

ひと昔前は、ある基準があり、そこに誰がどれだけ早く到達するかという比較がありましたが、今は先行きが見えない時代。組織ですら、実験的なチャレンジをして手探りで進む状況においては、一人ひとりの個性を重んじよう、他人を意識しすぎて個性がつぶれるのはよくないという風潮になってきました。

両足院副住職の伊藤東凌さん
撮影=水野真澄
両足院副住職の伊藤東凌さん

だからといって、人と全く比較せず、もともとある個性だけで戦えるのでしょうか。個人的には、それは不可能だと思っています。周囲との比較を通してしか自分を知ることはできませんし、比較自体は否定するものではないと思っています。

ただ問題は「比較の仕方」です。他人のものは何でもよく見えるたとえに「隣の芝生は青い」という表現がありますが、パッと見たときはきれいに見えた隣の芝生もよく見ると、いろいろなものが混ざっているなとか、うちの芝生のほうが元気で長つづきしそうだなとか、一瞬の見た目だけではわからないことがわかってきます。

一瞬で比較するのではなく、その中身を見て比較することがポイントになります。

一瞬で比較すると、比較対象が狭くなりすぎて本質を見失いがちです。たとえば社内の同僚とポジションや給与を比較して、自分は下だからダメだとなってしまう。これは、とてももったいないことです。

マトリックスの中で自分の立ち位置を把握する

社内という狭い世界ではなく、この産業界で自分はどうか、さらにその枠を取り払って日本全体や世界全体ではどうかと、比較対象を際限なく広げていれば、自分が苦しくなることもありません。

広い比較ができれば、自分の位置づけも確認できます。

イメージとしては、水平軸ではなく、縦軸と横軸のマトリックス。特定の誰かと比較するのではなく、全体の中で自分をマッピングしていきます。

たとえば縦軸をクリエーティビティ、横軸をコミュニケーション能力とします。理想は、右上のクリエーティビティもコミュニケーション能力も高い位置だけど、今の自分はどちらも低い左下にいる。では右上にいくために、これから自分はどんな努力をすればいいのか、今の自分で最大化できることは何だろうか。

マッピングがきちんとできれば、自分のするべきことに集中して、強みや能力を伸ばしていけるのです。

これはマネジメント層の方にも持っていてほしい視点です。部下のポジションを把握して、強みを生かせる場所や輝けるステージを用意する。管理職の重要な役割ではないでしょうか。