1月6日、東京・芝にある増上寺でオンライン初詣が開催された。対象者は、コロナ禍で外出がままならない全国の高齢者施設の入居者。ジャーナリストで僧侶の鵜飼秀徳さんは「今後、各寺院では高齢者や入院患者向けのオンラインでの参拝や法要が進むでしょう」という――。

Zoomのオンライン初詣、費用は10人分プラン1万6500円~

この正月、一部の寺院や神社でオンラインによる初詣が実施された。

なかでも、東京・芝の増上寺では1月6日、画期的なオンライン初詣が開催された。対象は、全国の高齢者施設で暮らす入所者たち。コロナ禍で外出がままならない入居者に、少しでも正月気分を味わってもらおうと印刷大手の凸版印刷が企画し、増上寺が協力したのだ。

当日、都内は大雪に見舞われた。開始時間の午後2時に筆者もZoomでアクセスすると吹雪の中、真っ白に雪を被った増上寺大殿(本堂)が映し出された。普段は大殿の背後にそびえる東京タワーも、この日は吹雪で煙っていてまったく見えない。それが、かえってめったにみられない「都会の絶景」となって映った。

増上寺の三解脱門の2階より、吹雪の境内を俯瞰する
増上寺の三解脱門の2階より、吹雪の境内を俯瞰する(画像提供=凸版印刷)

着物を着た案内人、レクリエーション介護士の近藤真紀子さん(江戸民話の語り部)の鼻は真っ赤。過酷な環境でのリポートは、相当なインパクトをもって全国の高齢者施設に中継された。

増上寺は、築地本願寺(東京都・中央区)と同様に、伝統にとらわれない斬新な企画の数々を実施してきている。オンライン初詣でも先鞭せんべんをつけた形となった。しかし、ただ単に初詣の様子を中継したり、録画配信したりするのではない。この企画が斬新なのは凸版印刷が寺院と連携し、高齢者介護施設に向けて実施したことである。

凸版印刷は、2020年より国内外の企業・団体に対し、オンラインで日本の伝統文化体験が楽しめるオンラインツアー事業を提供しており、寺社参拝サービスもその一環だ。

全国の高齢者施設への、オンライン初詣の告知と参加の呼びかけは昨年暮れに行われた。当日は首都圏を中心に、25施設およそ700人の入居者がオンライン初詣(Zoomを活用)に参加。遠くの施設では大阪府からの参加もあった(一施設あたりの参加費用は、参加人数によって10人分:1万6500円~50人分:5万5000円(税込み、人数分の勝運御守、紙絵馬付)。

およそ1時間にわたって、増上寺の空間が入居者たちに共有された。高齢者は施設にいながら、スクリーンやモニター上で参拝気分を味わった。

増上寺は首都圏の高齢者にとってはなじみがある寺。他府県の施設入居者のなかには初めて増上寺に接する人もいて、観光気分での参加となった。