年末になると、人形や名刺など不要となったモノを奉納し、“お焚き上げ”する寺社がある。ジャーナリストで僧侶の鵜飼秀徳さんは「対象物に込められた魂を浄化させ供養することで奉納者(元持ち主)はスッキリする。近年、奉納数が激増しているのが人形。11月下旬に開催された京王線沿線駅での人形供養祭には6500体以上の雛人形やぬいぐるみなどが集まった。人間の供養よりも手厚い印象がある」という――。
Sansan株式会社の名刺納め祭(2017年)
撮影=鵜飼秀徳
Sansanの名刺納め祭(2017年)

名刺、人形…お焚き上げして対象物内の「魂」を浄化させて供養

年の瀬になると「使われなくなったモノ」を奉納し、供養する祭事が、全国各地の寺社で増えてくる。人形や針、筆、古書など、供養の対象物には枚挙にいとまがない。即物主義的な社会になっているが、そうした供養を始める企業や寺社は続々出現しており、また奉納されるモノも増え続けている。本稿では、そうした「供養せざるを得ない」日本人の心に迫ってみたい。

名刺をクラウドで管理するサービスを手がけるSansan(東京都渋谷区)。同社は例年この時期に「名刺納め祭」を実施している。昨年はコロナ禍の影響があり、オフラインで開催するのは2年ぶりだ。12月8日、9日には東京の神田明神で、15日、16日には大阪の大阪天満宮で計4回実施する。私は4年前にこの名刺納め祭に参加しているが、当時は神田明神のみの開催だった。

Sansan株式会社の名刺納め祭(2017年)
撮影=鵜飼秀徳
Sansanの名刺納め祭(2017年)

近年、名刺のデータ化が進んでいる。名刺を写真撮影してアプリに取り込む。すると、スマホやパソコンを使って、簡単に名刺が呼び出せる。電話や住所もデジタル化されるため、スマホをワンタッチ操作するだけで電話がかけられたり、名刺に記載された住所通り地図が表記されたりする便利なサービスだ。

しかし、紙の名刺をひとたびデータ化すれば、元の名刺は不要になる。合理的に考えれば手元に残った名刺は紙くず同然だ。がしかし、名刺はなかなか廃棄処分に踏み切れないアイテムのひとつ。捨てられないどころか、折り曲げたり、汚したりすることもはばかられる不思議な存在でもある。

相手の「名前」が記載された名刺には、本人の「魂」や「アイデンティティ」が込められているのでは――。このように相手の心を推し量ってしまうのが人情というものだ。そして、名刺がどんどんたまっていく。

そこで、同社が2015年から始めた、名刺を手放すきっかけづくりがこの「名刺納め祭」というわけだ。神殿にて、神職によって祝詞が奏上されると、参加者はうやうやしく耳を傾け、不要になった名刺と玉串を奉納する。れっきとした宗教行事である。

この世にあふれる「捨てられない」存在を、各地の寺院や神社では「お焚き上げ」という手法で断捨離させる。例えば、宗教施設で授與されるお守りやお札の類はその最たる例だ。

境内でお焚き上げすることで、対象物に込められた「魂」を浄化させ、供養する。それで奉納者はスッキリする。外国人には理解に苦しむことかもしれないが、人と人との見えない関係性や霊性を大事にする、日本人独特の美しい行為といえる。