ディズニー系、ピカチュー、西洋人形…高さ2mに積み上げられる人形

私は2017年に同社の人形供養祭に参加したことがある。この時、持ち込まれたのは5600体。会場は、雛人形などの人形の部屋とぬいぐるみの部屋に分けられ、壁面に沿って並べられ、その高さは2mほどにも積み上がっていた。

ある若い男性は、薄汚れた小さな犬のぬいぐるみを1つだけ持参してきた。名残惜しげに祭壇の前に置かれたぬいぐるみを見つけると、その場を離れようとしない。法要の最中もそのぬいぐるみの写真を手に持ち、寂しそうな表情を浮かべていた。ある女性は2体のぬいぐるみを持参したが、スタッフに引き渡すことを躊躇し、1体は持ち帰った。

預けられた人形やぬいぐるみはスタッフが陳列する。特に雛人形の場合、同じような姿顔立ちをしているので会場内で見つけることは至難と思われる。しかし、多くの人が不思議とすぐに自分の人形を発見できるのだという。

人形供養祭の様子
撮影=鵜飼秀徳
人形供養祭の様子

読経の最中は、会場からはハンカチで目を覆う参列者の姿も少なくなかった。泣いているのは特に年配女性が多い。筆者は、きっと夭折した子供の親で、その子供がかわいがったぬいぐるみを供養しに来たのではないかと、推測した。だが、そうではなかった。

涙を見せる人は、子供の成長に伴って、実家に残された人形やぬいぐるみを納めるケースがほとんど。「お人形さん、これまで子供の成長を見守ってくれてありがとう」という気持ちがこみ上げ、感無量になるというのだ。

会場を埋め尽くすのは、ディズニーやアニメのキャラクター(ミッキーやミニー、プーさん、ピカチューなど)のぬいぐるみ、西洋人形、こけし、アイヌの木彫りの人形、沖縄のシーサー、羽子板まで。子供が愛玩し当時の匂いが染み付いたぬいぐるみ、亡き祖父母が贈った雛人形、家族旅行の思い出が詰まったものなど、そこには悲喜こもごもが込められる。

「とてつもない重い空気」

導師役の僧侶が漏らした言葉が印象的だった。同社のスタッフは、「供養祭が終わって、片付けている時が特につらい。人間のお葬式以上に重い……」と話してくれた。

供養祭の行事をスタートさせた当初、同社ではこれほど重々しい雰囲気になるとは想像もしなかったという。そもそも人形供養祭の大きな目的は、人形の供養を通じて企業名を周知してもらうことにある。つまり、PRイベントの一環としての取り組みがこの人形供養祭だったのだ。しかし、実際にやってみると、「供養や葬式の本質が見えてきた」という。

昨今、直葬や家族葬が増え、葬送の希薄化が言われているが、それはコストや僧侶の側の問題であって、葬式をしたくないということではないということなのかもしれない。モノの供養から、日本人の心の原風景をみた気がした。

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