亡き人を悼み送る「納棺師」は、どのように遺族に寄り添っているのか。納棺師の大森あきこさんの著書『最後に「ありがとう」と言えたなら』(新潮社)から一部を紹介する――。
「何で? 何で?」お母さんに突き付けられた理不尽な現実
小さな子供の納棺は何度経験しても心が痛くなります。
ハナちゃんは2歳の女の子。昨日までお父さん、お母さんに大好きな絵本を読んでもらってかわいい笑顔を見せたり、お父さんの脱いだ洋服を洗濯機までトコトコ歩いて片付けたりしていました。
しかし、突然死は、家族からハナちゃんを無理やりちぎり取りました。
家に着くと奥からお父さん、お母さん、おじいちゃん、おばあちゃんの泣き叫ぶ声が聞こえます。本当のことを言うと、中に入るのが怖くてしかたがありません。私にできることがあるのかなと不安で足がすくみます。
でもどんなに入るのが怖くても、葬儀会社の担当者さんと打ち合わせをした後、ご遺体のそばへお邪魔することになります。
部屋には小さな布団と、絵本や赤や黄色のぬいぐるみやおもちゃが綺麗に並べられた棚。お布団の中には小さな女の子が寝ています。小さな手は握られて腕がスッと伸び、下着の下の小さな胸に刻まれた解剖の跡が見えています。早く隠してあげたい。
お母さんは手や足をさすりながら、「なんで? なんで?」と涙を流しながら問い続けます。