初対面の人と仲良くなるにはどうすればいいのか。『元FBI 捜査官が教える「心を支配する」方法』(だいわ文庫)から、スパイや工作員が実践する「人に好かれる公式」を紹介する――。(第1回/全3回)
壁の前に立ちながら写真を見ている成熟した警察の刑事
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「出会う前」こそ時間をかける――「シーガル作戦」の例

彼のコードネームはシーガル。アメリカと敵対する国の高位の外交官だ。彼がアメリカのスパイになってくれれば、貴重な情報源になると思われた。

だが、母国と敵対するわが国に、どうやって寝返らせればいいのだろう?

その答えは「シーガルに好かれてひとりの友人となり、魅力的な提案をする」ことだった。この戦略を成功させるには、シーガルの私生活に関する情報を丁寧に収集したうえで、彼がアメリカの諜報機関を信頼するように仕向ける必要があった。

そこでまずシーガルの身辺調査を行ったところ、彼が何度か昇進を逃していること、アメリカでの生活が気に入っており、できることなら老後はアメリカで暮らしたいと妻に話していたことなどがあきらかになった。

さらには、母国で見込まれる年金受給額が少額であるため、快適な老後生活を送れそうにないと不満をもっていることもわかった。こうした情報を分析した結果、相応の金額を提示すれば母国を裏切らせることは可能だと、FBIの分析官たちは考えた。

しかし、いきなり金額を書いた紙を見せて説得したところで、成功するはずがない。警戒されずに彼に近づき、彼と親しくなり、交渉にもち込む必要があった。そこで、FBI工作員のチャールズに白羽の矢が立った。

時間をかけてシーガルと信頼関係を築き、熟成した上質のワインが最高の風味を帯びるように、機が熟した頃合いを見はからって金額を提示するよう命じられたのである。