ホタルのお尻は光るのか
子どもの頃、自然の光のショーを眺めながら、けだるい夏の夕暮れを過ごしたことがあるだろうか。キッチンに置いてある保存用の瓶を掲げ、薄闇の中、そよ風に揺れる小さなランタンのように動く光の点滅をとらえようとするのは楽しいものだ。
夏の夕暮れに光を放つホタルは人の心をとらえて放さない、地球上もっとも魅力的な生き物のひとつだ。
ホタルが発光する仕組みは複雑で、生物学や物理学の知識がなければ理解するのは難しいが、ここで注目したいのは、ホタルが光を放つ理由だ。
ホタルはさまざまな理由から発光する。
光を点滅させることで「自分たちは苦いから食べてもまずいだけだぞ」と捕食者に警告を送っているという説、また種の異なるホタルはそれぞれの発光パターンをもっており、自分と同じ種のホタルを見つけたり、性別を見分けたりする際に役立てているという説もある。
諸説ある中、ホタルの発光が本書の内容に関わってくるのは、ホタルが発光を「求愛のシグナル」として利用しているという点だ。これまでの研究により、オスのホタルはメスのホタルの気を引くために特別な点滅パターンを利用することがわかっている。
フロリダ大学の昆虫学者マーク・ブランハムは「発光の点滅率や光度が高いオスほど、さまざまなタイプのメスを引きつけることができた」と述べている。
ホタルとスパイの意外な共通点
ホタルの振る舞いは、人が自分を魅力的に見せ、相手に好意をもってもらいたいときの行動とよく似ている。
というのも、人はたいていあなたの声を「聞く」前に、あなたの姿を「見る」からだ。人は、あなたの態度やしぐさを見て、「この人と親しくなりたいかどうか」を判断している。
互いについて予備知識なく初めて会う場合、〈好意シグナル〉を送り、「あなたと親しくなりたい」というメッセージを伝えることも、〈敵意シグナル〉を送り、「あなたとは関わりたくない」と伝えることもできる。さもなければ、わざと「光」を消し、自分の存在を目立たなくすることもできる。