「配偶者や恋人など親密な関係にある(あった)者から振るわれる暴力=DV」は、腕力のある男性(夫)が女性(妻)や子供にしているケースが目立つが、その逆もある。トラブルを抱える家庭の取材を数多く手がける旦木瑞穂さんは、「妻が夫にするDVが成立するのは、意図的か本能的かは不明ですが、DV加害者の多くが、段階を踏んで被害者への支配や恐怖を強めていくからだと考えられます」という――。
ビジネスマンの影
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ある家庭では、ひきこもりの子供を「いない存在」として扱う。

ある家庭では、夫の暴力支配が近所に知られないように被害者の家族全員がひた隠しにする。

限られた人間しか出入りしない家庭という密室では、しばしばタブーが生まれ、誰にも触れられないまま長い年月を暮らすケースも少なくない。

なぜそんな「家庭のタブー」は生じるのか。どんな家庭にタブーは生まれるのか。具体事例からその成り立ちを探り、発生を防ぐ方法や生じたタブーを破る術を模索したい。

ヨソからは何も見えない「家庭のタブー」を生む3つの条件

筆者はこれまで多くの家庭を取材してきた。中には、DV夫がいる家庭や、ニートの子どもがいる家庭、認知症の親を介護する家庭や障害のある子どもを持つ家庭なども含まれる。その際、一部の家庭で時々疑問に感じるのは、「被害者(困っている家族)は、なぜもっと早くに助けを求めないのか?」ということだ。

例えばDVの場合、加害者の多くがDVの事実を外に漏らさないようにする。だが、被害者までもが外部に助けを求めず、隠蔽し続けるケースが散見される。そのため外部の人たちが気づくのが遅れ、悲しいニュースになってしまうことや、被害者が後遺症に苦しみながら生きるケースも少なくない。

家庭にタブーが生まれることは、決して特殊なことではない。条件さえ揃えばどんな家庭でもタブーを生み育てることができると筆者は考えている。その条件とは、「短絡的解決」「孤立」「恥」の3つだ。

「家庭のタブー」条件1:短絡的解決

本連載で前回紹介した家庭の事例を基に、3つの条件を解説する。話を簡単におさらいしよう。

フリーターをしていた橋本幸男さん(40代・独身)は、25歳の頃、参加した合コンである女性と出会う。意気投合し、数回食事や買物をしたあと、交際を開始。橋本さん宅で同棲を始めた初日、橋本さんが自分のお金で購入した漫画を彼女に見せると、彼女は突然空気が変わり、橋本さんを無視。約6時間に及ぶ無視の後、彼女が発した言葉は「勝手にお金を使わないでくれる?」。橋本さんが漫画を買ったことが気に入らなかったようだった。

橋本さんは衝撃を受け、「自分が働いて稼いだお金で買ったのになぜ? 同棲は始めたけど、まだお金のことについて何も決めてないよね?」とモヤモヤが溢れ出したが、当時の橋本さんは、「お金に対してしっかりした子だなあ」という気持ちでモヤモヤに蓋をしてしまい、しっかりと戦わなかった。

これが、タブーが生まれた瞬間だった。

このとき橋本さんは、彼女は「経済的にしっかりしている」と納得した。しかしその納得には、「自分で稼いだお金で、自分の判断で物が買えなくなる」という“重い鎖”が付随していた。了解してしまえば自分の自由が犠牲になる。けれど、6時間もの無視に及んだ彼女だ。抗えば機嫌を損ない、最悪の場合、別れることになってしまうかもしれない。

橋本さんはとりあえずその場を上手く収めることだけを優先し、「彼女はまだ若いから」「きっといつかわかってくれる」と、自分自身を納得させてしまったのではないか。これが「短絡的解決」だ。これにより、その後、彼女と結婚した橋本さんは、さらに自分を苦しめていくことになる。