ネグレクトの母親と性的虐待未遂の父親
関東在住の鳥越香さん(50代・既婚)は、豪農の出で中学を卒業以来、製造業で働く父親と、代々続く歯科医の家の娘だった母親のもとに生まれた。政略結婚のような形で結ばれた両親は、仲がよいとは言えず、大げんかを繰り返していた。
主なけんかの理由は、母親が家事や育児をしないこと。母親は、「食費や光熱費を節約するため」と言って料理を全くせず、掃除も月に2〜3回。風呂は4日に1回で、鳥越さんは常にお腹をすかせており、小学校に上がってからは給食が栄養源の中心だった。今でいう、ネグレクトの状態だ。鳥越さんには4歳離れた姉がいるが、小学校3年生の頃から登校拒否をしていた姉は、毎日1個の菓子パンで過ごしていた。
節約してできたお金を何に使っていたかと言えば、母親は自分の服や靴、貴金属類を購入するために使っていた。そのため、県営団地でさほど広くない家の中は、母親の服飾雑貨類で溢れかえっていた。
服飾雑貨類の購入資金は、ほとんどが歯科医である自分の父親(鳥越さんの祖父)からもらったもの。家事も子育てもしない母親に父親は度々怒ったが、「あんたの稼ぎだけだったら、とっくに破産してたわよ!」と聞く耳を持たない。
生まれてくる前、男の子だと期待されていた鳥越さんは、幼少の頃、父親からはバットやグローブ、釣具や虫取り網を買い与えられ、母親はリボンやフリルが付いた服は避け、常に青系の服やズボンを着せた。
そのため、鳥越さんに初潮が訪れたときも、すぐには母親に言えず、トイレットペーパーを丸めたものでしばらくやり過ごした。しかし量が多くなると、トイレットペーパーでは追いつかない。ついに母親に打ち明けると、母親は舌打ちして、生理用品を投げてよこした。
その数日後の深夜、父親が酒を飲んで仕事から帰宅。まだ起きていた鳥越さんを見つけると、「お前、男の子じゃなかったのか。確認してやる」と言って下着に手を入れてきた。びっくりした鳥越さんは父親の手を払いのけて逃げる。このときから鳥越さんは、父親と2人きりになるのが怖くなった。
そんな家庭に育った鳥越さんだが、品行方正、成績は中の上。だが、両親は子どもたちの学歴に全く興味がなく、義務教育を終わらせれば親の責務は果たしたと考えていた。しかも、2人の娘への教育方針はあべこべ。4歳上で成績がよくなかった姉には私立高校へ行かせ、鳥越さんには、中卒で働きに出た父親をモデルケースに、母親は「高校進学なんて不要だ」と言った。それでも鳥越さんが必死に頼み込むと、やっと「通学費がかからないから」と、母親は渋々名前を書けば受かる近場の公立高校を勧めた。
「姉は無条件に私立高校と専門学校に行き、私は公立高校に頭を下げて行かせてもらい、卒業後は就職。子の学歴は親の教育概念に大きく左右されると、この頃の私は打ちのめされました」