実親や義親、夫、子供……家族との関係が悪い人生は苦渋にまみれている。関東地方に在住の50代の女性は家族と良好な人間関係構築を目指すが全然うまくいかない。年を重ね病に倒れた親たちを同時に介護しながら、自分も病(脳動脈瘤、狭心症、乳がん、子宮摘出など)と懸命に闘った。だが、夫は「無理はするなよ」と言いつつ、一切手を貸さず、寝転んでのんきにテレビを見て笑っている――(後編/全2回)。
【前編のあらすじ】関東在住の鳥越香さん(50代・既婚)の母親は、家事をほぼせず、育児も放棄。にもかかわらず、服や靴、貴金属を山ほど買って浪費。鳥越さんは高校卒業後、就職した自動車販売会社では上司からセクハラに遭い、結婚した同期入社の夫からはDVを受けた。父親が定年退職すると、母親は家を飛び出して姉の家へ。鳥越さんは、身勝手な母親と絶交した。一方、義父は当初から鳥越さんの学歴や家柄を見下し、義母は鳥越さんを精神的に支配。そんな中、長女が小学校に上がると、鳥越さんはPTAに参加。夫に責められないよう、家事を完璧にし、休息や睡眠時間を削ってPTA活動を続けるうち、鳥越さんは精神的に病み、心療内科に通う。長女が中2になったある日、リストカットしている現場を目撃する——。
父親と義母の救急搬送
関東在住の鳥越香さん(50代・既婚)が母親(69歳)との連絡を絶ってから約10年の月日が流れていた。自分が小さい頃に一切の育児家事を放棄し、今度は定年した自分の夫までも捨てて逃げ出した母親を許すことができなかったのだ。
そんな2011年9月のこと。突然、鳥越さん宅に70歳の父親が訪ねてきて、「お母さんが、肺がんかもしれない」と言う。
母親が病院でレントゲンを撮ったところ、肺に白い影が写り、医師から「肺がんの可能性がある」と言われてから、ひどく落ち込んでいるという。父親は母親が家出をして、鳥越さんの姉(長女)宅に転がり込んでからもときどき連絡を取っていたようで、「亡くなる前に、会わせてやりたい」と思ったらしい。
それでも鳥越さんは、母親と会うことを拒絶した。
精密検査を受けたところ、母親は肺がんではなかった。「肺は、胸を強くぶつけただけでもレントゲンに白く写ることがある」と医師から説明があったと、あとで父親から聞いた。
しかし、その3年後の2014年。父親が突然倒れ、自分で119番通報した。駆けつけた救急隊員は、長女のところにいる母親に連絡。母親は、自分から出ていった手前、入院する父親の身の回りの世話をすることははばかられると言い、「お父さんの入院手続きをしたり、必要なものを届けてあげたりしてほしい」と、鳥越さんに電話をしてきた。これがきっかけで鳥越さんは、13年以上ぶりに母親との交流を再開することになった。