義父の世話は“長男の嫁”

脳梗塞を起こしていた父親は、薬で血管内の梗塞した部分を溶かして流すと、1カ月後には後遺症もなく、退院することができた。

2017年10月。82歳の義父から深夜に電話があり、大学生になっていた鳥越さんの次女が出た。どうやら77歳の義母が倒れて救急搬送されたらしいが、電話口で義父は気が動転しており、どこの病院に搬送されたか言わずに電話を切ってしまった。

困った鳥越さん夫婦は、着信履歴に残った電話番号から病院を割り出し、搬送先の病院に問い合わせると、義母はくも膜下出血を起こし、予断を許さない状況で、すぐに開頭手術となるという。

翌朝、鳥越さん夫婦が病院に駆けつけると、義母は開頭手術を受け、ICUに入っていた。容体は安定していたが、3日目に脳梗塞と水頭症を起こし、2度危篤状態に陥った。だが、薬で梗塞を流し、無事生還。ICUで2週間の治療を受けたあと、入院して2カ月間リハビリを行うことに決まる。その間、ひとり暮らし状態になる義父の世話は、“長男の嫁”である鳥越さんに一任された。

義父は、家事といえば掃除機をかけるくらいしかできず、鳥越さんは毎日義実家に通い、洗濯や食事の支度、冷蔵庫の補充、そして、一人残された不安感を訴える義父の話し相手となった。

一方、義母は主治医が舌を巻くほどの驚異的な回復力を見せ、リハビリ専門病院に転院後、2カ月で退院。退院後しばらくは握力が弱かったり、ふらついたりして運動機能の低下が見られたが、徐々に軽快し、現在は一人で庭木の枝打ちができるまでに。

ただ、術後の脳梗塞と水頭症の後遺症は見られ、退院前の検査で、高次脳機能障害と、軽度の認知症と診断された。

記憶が消えていくイメージ
写真=iStock.com/Naeblys
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下肢静脈瘤、脳動脈瘤、乳がん

翌2018年1月。義母が退院し、鳥越さんは義父の世話から解放されるかと思いきや、ますます“長男の嫁業”に駆り出されることが頻繁になっていった。義母は数年前からネットゲームにハマっていて、家事を鳥越さんに押し付け、自分はゴロゴロしながらゲームに没頭。やるせない思いに駆られた鳥越さんは、数年前から気になっていた、下肢静脈瘤の手術をしようと思い立つ。

「私と同じ嫁の立場の義妹はお客様扱い。ずっと『なぜ私だけ?』と、思っていました。下肢静脈瘤の手術は、生活に支障がなければ必ずしも受ける必要はないのですが、『手術を受ける』と言えば、義母の態度が変わるかと思ったのです」

ところが夫は、「母さんは退院してから日が浅く、まだ回復し切っていないから、ストレスになるようなことは言わないほうがいい」と言って、鳥越さんが手術をすることを義両親に隠すよう言う。鳥越さんはすっかり意気消沈してしまった。

そんなとき、ふと夫が、「母さんみたいに突然倒れると困るから、脳ドックを受けてみよう」と言い出し、夫婦で受診。結果、夫には問題は見つからなかったものの、鳥越さんの内頸動脈と総頸動脈に1つずつ脳動脈瘤が見つかる。

医師に「内頸動脈は失明の危険と、くも膜下出血の危険があります」と説明され、8月末に摘出手術を受けることが決定する。