左乳首から血混じりのリンパ液がにじみ出た
それと同じ頃、鳥越さんは、左乳首から血混じりのリンパ液のようなものがにじみ出て下着を汚すようになり、セルフチェックをすると、乳房にしこりのようなものが触れる。すぐに隣駅にあった乳腺外科を予約し、検査を受けたところ、乳がんのステージⅠと診断された。
結局、鳥越さんは、8月末に脳動脈瘤、12月に乳がんの摘出手術を受けることに。
8月末に脳動脈瘤の手術を受け、15日間の入院から帰宅すると、夫は「無理するなよ。食事の支度だけしてくれればいいから」と言った。
「おそらく、脳の手術を受けたと言っても、見た目には何も変わりがなかったため、夫も娘たちもあまり私に関心を持たなかったようです」
長女も次女も、自分の生活のことで精いっぱいだったのだろう。鳥越さんは術後、感音性低音難聴というストレス発作が起き、しばらく通院が必要に。夫は、車の運転ができない鳥越さんの、病院の付き添いだけはしてくれた。
義父の肺炎と父親の大腿骨骨折
同じ年の10月、今度は義母から、義父が8月の終わり頃から食欲不振で、「6キロも痩せた」と連絡がある。鳥越さんが検査を勧めると、義父は近場の内科を受診。「肺に水がたまっている」と言われ、利尿薬を処方されて帰ってきた。
それを聞いた鳥越さんは、「肺に水がたまる原因を特定せずに、利尿薬だけを処方するのはおかしい」と言い、義父に電車で30分程の埼玉の大学病院を受診させる。すると、義父は極度の脱水状態に陥っていることが分かり、その場で入院が決まる。
一方、当時81歳の父親は、その翌日、趣味のグラウンドゴルフに出かけたところ、ぬかるみで転倒。ゴルフ仲間が「足がありえない方向を向いている!」と言って慌てて救急車を呼んでくれ、救急隊員から鳥越さんに連絡が入った。
父親は、実家からも鳥越さんの家からも近い神奈川の総合病院に搬送された。鳥越さんが駆けつけると、7年ほど前と5年ほど前に脳梗塞と、3年ほど前に心不全を患っていた父親は、血液をサラサラにする薬を服用していたため、「すぐに手術をすることができない」と医師から説明される。
父親の手術は4日後に予定されたが、入院中に父親が隠れて酒を飲んでいたことが発覚すると、結局手術は7日後に延期。無事手術が終わると、3カ月間入院することになった。
義父と父親の着替えなど、入院に必要なものを届けるのは、当たり前のように鳥越さんの役目になった。夫は、平日は仕事で動けず、義母は高次脳機能障害と認知症のため、病院まで一人で行かせることはできない。
母親は90度に腰が曲がり、おぼつかない足取りで、父親の世話を頼める状況ではない。娘たちは、自分たちの生活に一生懸命で、われ関せず。契約社員の姉は、思うように休みが取れないため、母親の世話だけに専念してもらうことに。
だが、8月末に脳動脈瘤の手術を受けたばかりで、体力が完全には戻っていない鳥越さんに、全く方向の違う2つの病院を回る日々は、過酷だった。
「やらなければならない一心でやり抜きましたが、当時、どのようにして2つの病院に通っていたのか、記憶がありません。電車を利用していたことは確かですが、いつも頭の中にピーッと高い音が鳴っていて、感情を失っているような状態でした。夫は『無理するな』とは言いましたが、誰も助けてはくれませんでした」