「家庭のタブー」条件3:羞恥心

多くの場合、DVは、加害者はもちろん被害者もそれについて言及しようとしない。まさに「家庭のタブー」の代表格だと言える。

だが、なぜ被害者はそれについて言及しようとしないのだろうか。その理由は、タブー下における被害者心理にあると考えられる。

シャドー
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先述のように被害者はまず、「短絡的解決」により、タブーを生み出す。橋本さんのケースで言えば、これまでの交友関係を切るように言われたときと、「勝手にお金を使わないでくれる?」という彼女に対し、反論しなかったときだ。

以降、橋本さんは「孤立」していき、自分で稼いだお金で、自分の判断で物が買えなくなった。ひとたびタブーが生まれれば、加害者側はしめたものだ。みるみる本性を表し始め、ことあるごとに「怒らせるお前が悪い」などと言い、「DVの原因は被害者」だと洗脳・刷り込みをする。

一方、被害者側は、加害者側が暴力や暴言を振るっていない、いわゆる「ハネムーン期」の振る舞いや言葉にほだされ、「自分は愛されている」「(加害者側が)反省してくれたからもう大丈夫」と思い、暴力・暴言を受けてもその度に許してしまう共依存関係に陥っていく。

そして、洗脳状態、共依存状態に加え、被害者側がタブーを破るうえで大きな障害となるのが、「羞恥心」だ。精神的DVや経済的DV、社会的DVなど、目に見えないDVはもちろん、身体的DVであっても、病院での治療が必要なほどの大ケガを負わされたわけではない場合、「おおごとにしたくない」「体裁が悪い」など、「恥ずかしい」という気持ちから、被害者側はDVの事実を隠そうとするのだ。

特に、橋本さんのようにDV加害者が妻の場合、夫は「一般的に、男性より非力とされる女性にかなわない自分」に感じる「情けなさ」や「恥ずかしさ」から、なかなか外に助けを求められなかった可能性がある。

橋本さんは付き合ってから約1年後に彼女と結婚し、2人の子どもをもうけたが、約5年後には妻からのDVに耐えきれなくなり、真夜中に着の身着のまま家を飛び出した。弁護士に依頼した後、妻からの報復をおそれて警察に相談したが、「何かあってから呼んでくれる?」と冷たくあしらわれ、こう思ったという。

「きっと、『男のくせに情けないな』くらいにしか思われなかったのでしょう。『何かあったらすぐに連絡くださいね』と言ってくれたら、それだけで安心感が違います。やはり、長年DV加害者に支配されてきた被害者の恐怖は、経験した者にしかわからないのだと思いました」

「短絡的解決」により経済的DVを受け、自由にできるお金もなく、社会的DVを受け、親しい友人知人との交際を禁止され、「孤立」していた橋本さんは、長年の精神的DVによる支配や恐怖、そして「羞恥心」から、極限まで声を上げることができずにいたのだ。