「家庭のタブー」条件2:孤立
家族、友人、恋人などの人間関係において、「自分が我慢すれば解決する」という自己犠牲の精神でいると、自分の味方が自分ではなくなる。1対1の人間関係の場合、自分が味方でなくなれば、自分を救ってくれるのはもはや相手だけだ。橋本さんの場合、残念ながら彼女は、橋本さんを救おうとはしてくれなかった。それどころか、同棲する以前から意図的に支配関係を構築していた節がある。
なぜならそれは、橋本さんと彼女が付き合い始めた頃まで遡る。彼女は橋本さんと付き合い始めたとき、幼馴染や同級生、昔のバイト仲間など、すべての交友関係を切るよう命じていたのだ。
女友だちの連絡先は、彼女の目の前ですべて消去された。以降、同窓会や飲み会などの誘いを受けても断るしかなかったため、次第に誘いも来なくなっていった。
友だちとの交際が続いていれば、橋本さんが彼女のことを話す機会もあっただろう。もしかしたら友だちは、「お前の彼女、おかしいよ」と言ってくれたかもしれない。しかし付き合い始めて早々に友だちとの交際を禁止され、情報が遮断され、孤立してしまった橋本さんは、目の前の彼女を信じる努力をし続けるしかなかった。
では、橋本さんの両親はどうだったか。
結婚前に紹介されたとき、両親は多少の違和感を抱きつつも、猫をかぶる彼女にすっかり騙された。唯一、おばあちゃん子だった橋本さんを可愛がっていた母方の祖母だけは、「あの子はやめときな」と言ったが、そのときは橋本さんを含め、誰も耳を貸さなかった。
最近よく耳にするようになったモラハラは、モラルハラスメントの略であり、言葉や態度によって行われる精神的暴力をさす。モラハラはどこでも起こり得るが、家庭で起こる場合、「ドメスティック・バイオレンス:DV」と混同されがちだ。DVには身体的・精神的・経済的・社会的・性的と5つのDVがあり、このうち「精神的DV」をモラハラと呼ぶことが多い。
橋本さんは、彼女との交際が始まった時点で、友人との交際禁止や行動範囲の制限などといった「社会的DV」を受け、同棲が始まったと同時に、自分の稼いだお金を自由に使えない「経済的DV」が始まった。
外部からの情報を遮断され、被害者が発信することも禁止されれば、被害者は「孤立」する。「孤立」してしまえば、被害者は自分の家庭がおかしいと気づくことも、助けを求めることも難しくなる。
橋本さんは彼女に「交友関係を切って」と言われて素直に従ってしまったとき、すでに「短絡的解決」がなされていた。そして意図的か本能的かはわからないが、彼女は橋本さん以前に付き合った交際相手も、同様の手口で社会的に孤立させてきたに違いない。