心根のやさしい31歳の女性は、2歳の息子を育てながら、アルツハイマー型認知症になった73歳の義母の介護にフル回転する。育児・介護で手一杯だったが、かねてよりの希望だった「2人目の子供」をつくることを決意。おなかが大きくなる中、症状が悪化する義母の心ない発言に傷つきながらもやっていけたのは、予期せぬ救世主が登場してくれたおかげだった――。
ピンチハンガー
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【前編のあらすじ】
九州地方に生まれ育った近藤紗代さん(仮名・31歳・既婚)は、介護施設で働いていた27歳のときに3歳上の同郷出身者の男性と交際を始め、2年後に結婚。仕事を辞め、男性の勤務先のある関東地方へ移住。男の子を出産した。ところが、九州でひとり暮らしする73歳の義母が中等度のアルツハイマー型認知症に。近藤さんは息子を連れて帰省し、実家から義実家へ義母の通い介護を始める。10キロも痩せ、1人では暮らしていけない義母のため近藤さんは、夫と相談。家族で九州にUターンして、義母を介護することを決意した——。

近距離ダブルケアの現実

要介護状態になった義母のため、関東地方から3歳上の夫と2歳の息子とともに九州に移住した近藤紗代さん(仮名・31歳・既婚)。週2日はデイサービスの利用で助けられたが、残り5日は息子を連れて自分が住むアパートから義母宅へ向かい、身の回りの世話をするというハードなスケジュールだ。

義母を連れて必要なものの買い出しに行き、食事の支度や服薬管理、掃除や洗濯をこなし、デイサービスに通う準備をして帰宅。それらを全て、幼い息子を見守りながら行わなければならない。

また、義母からは曜日に関係なく深夜や早朝でもお構いなしに電話がかかってきて、呼び出されたり、紛失したものの捜索などに対応させられたりと、体を休める時間はなかった。

「義母はまだ徘徊やトイレの失敗はなく、私も同居ではなく通いのため、まだ楽なほうだと思います。ただ、認知症という病気なので仕方ありませんが、義母本人は『私は認知症じゃない』と言っており、私が週に5日介護に通ってくることを、『嫁の面倒をみてあげている』と思っていて、『嫁が毎日来るから大変だ』『嫁は口ばっかりで何もしてくれない』と近所に言いふらしているそうです。感謝してほしいとは思いませんが、少しつらいなぁと思ってしまいます……」

認知症の自覚のない義母は、近藤さんが息子を連れて義実家を訪れると、「私が孫の面倒を見てあげる!」と張り切る。生活に張り合いが出るのは良いことだが、困ったこともある。

認知症の義母は、口に入れると窒息の恐れのあるものや、賞味期限の過ぎたものを息子に食べさせようとしていたり、ライターなど危険なもので遊ばせようとしたりするため、近藤さんは目が離せないのだ。

一度、近藤さんが少し目を離した隙に、義母が息子を連れて外出。おそらく義母は、一緒に散歩に連れていってあげようと思ったのだろう。ところが認知症の義母は、外に出た途端に庭の草に気をとられ、息子のことをほったらかして草取りを始めてしまう。退屈になった当時2歳の息子は庭を駆け回り、車の往来がある通りに向かって走り出した。

その時は、近藤さんが玄関の物音に気づき、すぐに追いかけたので、道路に飛び出る直前に息子を捕まえることができた。万が一、近藤さんが気付かなかったら、取り返しのつかないことになっていたかもしれない。

近藤さんは、幼い息子を連れての介護の難しさを実感。翌日、市に相談しに行ったところ、「母親が働いていなくても、介護を理由とした保育園入所は可能」ということを知り、すぐに自宅から近い保育園を見学。申し込むと、約3カ月後の2021年4月から息子は保育園に通うことに決まった。