東日本大震災で流行語となった「帰宅難民」
いまから約2カ月前の2021年10月7日に千葉県北西部を震源として発生した地震は、埼玉県川口市および宮代町・東京都足立区等で最大震度5強を記録し、重傷者6名や2件の火災が発生しました1)。またこの地震では、水道管からの漏水やエレベーターの停止・閉じ込め、そして鉄道の運休に伴う帰宅困難者の発生など、地震の影響で都市インフラが一時的に機能不全に陥ったことは記憶に新しいところです。
さて、今年の新語・流行語大賞は大谷選手の大活躍により「リアル二刀流」「ショータイム」が選ばれましたが、いまからちょうど10年前の2011年12月に発表された新語・流行語大賞は「絆」「こだまでしょうか」「3.11」「風評被害」などの震災関連用語と一緒に「帰宅難民」もトップテン入りしました。
帰宅難民もしくは帰宅困難者という言葉やその対策は東日本大震災以前から議論されてきたものですが、これが新語・流行語大賞に選ばれたという事実は、東日本大震災をきっかけとして急激にその認知が広まったことを端的に表していると考えられます。
しかしながら実は、われわれが本来考えなくてはいけない帰宅困難者問題は、東日本大震災時あるいは先般の千葉県北西部を震源とする地震時とはちょっと異なるものなのです。このため、本稿ではまず、帰宅困難者の大量発生がなぜ起きるのか、そして帰宅困難者対策の意義はどこにあるのかを確認してみたいと思います。
大都市では帰宅困難者の発生は避けられない
はじめに、帰宅困難者の発生原因について説明しましょう。とはいえ、災害時に大量の帰宅困難者が発生する原因は明快で、大都市における昼・夜間人口の大きな差異、この一言に尽きるのです。
読者の皆さんもご存じのように、わが国の首都圏や近畿圏では多くの人が長距離を鉄道で通勤しています。例えば第10回大都市交通センサスによると、首都圏で日常的に鉄道を利用している人は約950万人と言われており、バス・路面電車定期利用者42万人と比較しても圧倒的な人数を鉄道に頼っています。そして、その通勤・通学の平均所要時間は68分となっています2)。
このように、「大量の人が」「長距離を」「鉄道で移動」している大都市で平日の昼間に突発的に鉄道が止まると、それが地震であろうが、大規模停電であろうが、何が原因であっても大量の帰宅困難者は必ず発生します。
つまり大量の帰宅困難者の発生は、大都市における職住分布の偏りという、都市構造の問題に起因します。なので、われわれがこの都市を使い続けている限り、あるいは相当数の通勤者が在宅勤務に切り替えない限り、帰宅困難者の大量発生問題は避けることができません。
1)総務省消防庁:千葉県北西部を震源とする地震による被害及び消防機関等の対応状況(第8報)
2)国土交通省(2007):「大都市交通センサス首都圏報告書」