帰宅困難者を発生させない、は現状困難

それでは、帰宅困難者対策はどのように行えばよいのでしょうか。そもそも先述したように、帰宅困難者の発生原因はひとえに大規模交通システムに支えられた大都市の職住分布そのものにあります。つまり抜本的な帰宅困難者対策は、都市の構造もしくは働き方そのものを見直すことしかありえず、すぐに実現するものではありません。

したがって帰宅困難者対策の大方針は「帰宅困難者を発生させない」ではなく、「発生してしまった帰宅困難者をどう管理するか、どのように対応するか」といった管理・対応中心の防災対策となります。

それでは、具体的にどう管理・対応すればよいのでしょうか。先述のように、帰宅困難者対策の目的は「帰宅困難者の一斉帰宅が引き起こす大渋滞によって直接的・間接的にもたらされる人的被害の軽減」ですから、ここではあえて逆の方向からアプローチしたいと思います。すなわち、帰宅困難者が人的被害を引き起こしてしまうケースを考え、その条件をつぶしていくような作業をすることで、その対策方針を明らかにします。

人的被害を起こさないための5つのメニュー

例えば、帰宅困難者が人的被害につながるケースとしては、ざっと考えただけでも、以下に示す9ケースが考えられるでしょう。

① 一斉帰宅の抑制に失敗し、大量の徒歩帰宅者によって過密空間が発生し、群集事故が発生する
② 一斉帰宅の抑制に失敗し、災害情報も得られず、大量の徒歩帰宅者が大規模火災発生地域や津波浸水地域で被害を受ける
③ 一斉帰宅の抑制に失敗し、余震で建物倒壊や外壁が落下して、これを避けきれず徒歩帰宅者が被害を受ける
④ 一斉帰宅の抑制失敗もしくは車道の交通需要増加で大量の帰宅者・車が発生し、道路が大渋滞し、結果として救急・消火・救助・災害対応が大幅に遅れる
⑤ 一斉帰宅の抑制失敗もしくは車道の交通需要増加で、大量の帰宅者・車が発生し、道路が大渋滞して避難行動が阻害される
⑥ 物流がストップし、備蓄もなく大都市中心部でモノ不足が発生し、帰宅困難者が避難所へ殺到する
⑦ 駅前ターミナルなどで、安全な場所が見つからず、各所から人が流入して溢れて転倒事故などが発生する
⑧ 安全な場所が見つからず、また災害情報も得られず、津波・大規模火災が襲来する
⑨ 安全確認をしないまま高層ビルなどに滞留し、余震被害や高層ビル火災が発生する

このもとで、この9ケースを起こさないためにはどうすればよいのかを考えます。すると、各ケースの前半部分の条件が発生しなければ、具体的には(1)一斉帰宅を抑制する、(2)車道における交通需要を抑制する、(3)十分な備蓄物資を準備しておく、(4)安全な場所を(安全確認を含めて)準備する、(5)災害情報を共有する、という条件が満たされれば、上記の9ケースを防ぐことができるのではないでしょうか。

仮に首都圏の多くの人が歩き疲れて筋肉痛になったとしても、一時的に家族に会えずに多少不安になったとしても、1人も死ななければ防災対策としては90点あげてもよいのではないでしょうか。すると、上記の5つのメニューが帰宅困難者対策の主要方針と考えられるわけです。