インドでは結婚の際に、妻の家族が夫の家族に持参金を渡す風習がある。京都大学大学院の池亀彩准教授は「持参金は1961年から違法とされているが、いまだに存在している。さらに持参金が少なかったからと、夫の家族らが新婦を殺害する持参金殺人も相次いでいる。最悪期の2011年には年間8618人の女性が犠牲になった」という——。(第2回)

※本稿は、池亀彩『インド残酷物語 世界一たくましい民』(集英社新書)の一部を再編集したものです。

悲鳴のイメージ
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アジアでは1億人以上の女性たちが“消えて”いる

「消えた女性たち(missing women)」という表現をご存知だろうか?

これは、ノーベル経済学賞を受賞したアマルティア・センが1990年12月20日付けの『ニューヨーク・レビュー・オブ・ブックス』で発表した「1億人以上の女性たちが消えている(‘More Than 100 Million Women Are Missing’)」という論文で初めて使われた表現だ。日本の人口に匹敵する数の女性たちが消えているとはどういうことなのか?

自然な状態であれば、100人の女児に対して105から106人の男児が生まれることはほぼ世界共通である。しかし男性が有利なのはここまでで、なぜか女性の方が病気などへの抵抗力が強く、単に女性が男性よりも長生きするだけでなく、成長期においても、同じ栄養状態、医療体制であれば女性の方が生存しやすい。そのため、ヨーロッパ、北米、日本では女性の人口の方が男性よりも多い。

だが、この女性と男性の割合は場所によって大きく異なる。他の地域に比べて女性の割合が著しく低い地域が中国、南アジア、西アジアなどである。

もし男女比を1:1とすると、この地域では1:0.94(1990年時点の数値)であり、他の地域では生存しているはずの女性がこの地域では6%も「いない(消えている)」ことになる。

さらにいえば、男性と女性が同等に扱われている地域での男女の人口比は1:1.05であるから、それと比較すると実に11%の女性が消えているわけだ。こうした計算によって導かれたのが1億人という数字であった。つまり本来ならば生きているべき1億人もの女性が何らかの原因でいないのだ。