2年間で13万人もの“買われた女性”たちが見つかっている
結果的に、多くの女性が「消えた」地域では、結婚できない若い男性が多く残ることになる。レイプなどの女性への暴力事件が多いのも同じ地域だ。
首都デリーに近い北インドのハリヤーナー州などの比較的裕福な地域では、アッサム州など北東地域から仲買人を通して花嫁を購入する事例が増えているという(前掲書の中谷純江論文参照)。
ハリヤーナー州は女性の割合が極端に少ない州の一つであるが、あるNGOが2017年7月から2019年9月に行った調査では、他州から「買われて」きた13万人もの女性を発見したという。
女性たちは、健康や年齢、外見や処女かどうかなどによって、7000円から6万円程度で買われる。「買われて」きた女性たちは侮蔑的な名称で呼ばれる他、言葉の違う土地のコミュニティーに溶け込むことができず、さまざまなハラスメントを受ける。
そして彼女たちは、正統な妻とはみなされず、遺産相続などで本来であれば得られるはずの財産を得ることができない。持参金を持ってきた女性たちですらハラスメントにあうのだから、「買われた」女性たちの困難さは想像に難くない。
過酷な状況のなかでも絶望しないインドの女性たち
インドの女性たちの置かれた状況は過酷である。2021年3月に発表された世界経済フォーラムによる「ジェンダーギャップ指数」は、経済参加・機会、教育、健康、政治エンパワーメントの分野での男女差を数値化したものである。
これによるとインドは2020年から28もランクを落とし、156カ国中140位である(ちなみに日本も同じランキングでは120位であまり褒められたものではない)。
だが、インドの女性たちは絶望してはいない。日本と比べるとむしろインドの女性たちの方が元気であるとすら思える。農村の女性たちによる自助組織は数多くあり、さまざまな形のフェミニズム運動も長い歴史の中で根強く続いている。女性差別がきついと言われる北インドで、女性だけの自警団を結成し家庭内暴力や性暴力を働く男性を懲らしめる女性たちもいる。
インドの女性たちの元気はどこから来るのだろうか。私たちはインドの女性たちの置かれた悲惨な状況を同情して憐れむだけでなく、彼女たちのパワーからも学ぶべきであろう。自分や周囲の女性たちの傷に共感し、怒り、そして行動にうつす勇気を持つ。
もしかしたらインドの女性たちは、そこにいたはずの女性たちに突き動かされているのかもしれない。