高級車やマンションを要求されることもある「持参金問題」

さて、なぜ女児よりも男児が好まれるのか?

数十年前の日本でも女児よりも男児、そして長男が「家」にとって大切な存在とされていたのだから、これはそれほど想像に難くないだろう。

男性が財産を相続し、家の名前やビジネスを継承し、先祖代々の墓を守る。だからこそ、男性が教育を受け、良い仕事に就き、家族を支えることが当然と考えられてきた。こうした家父長主義においては、実は男性自身もそのイデオロギーの犠牲者として苦しむことが多いが、女性は生き続けることはもちろん、生まれてくることそのものも困難なのだ。

インドにおいて男児が好まれる原因の一つに持参金問題がある。

娘を嫁に出す側が現金や金・銀などを持参金として婿側の家族に渡す習慣は、女性がより地位の高い家へと嫁ぐ上昇婚が多い北インドで行われた慣習だが、現在ではかつてイトコ婚などの同位婚が多かった南インドにも広がっている。また持参金はヒンドゥー教徒だけでなく、クリスチャンやムスリムの間でもみられる。

持参金の額は、婿となる男性の教育レベルや給与の額などで大きく異なる。またカーストによっても要求する額は変わってくる。インド西海岸部に多いコンカーニ・クリスチャンは多額の持参金を求めることで有名だが、現金や貴金属の他に、高級車や値段の高騰しているムンバイ市のマンション(これだけで何千万円とするだろう)などの不動産を要求されることもあるという。

こうして伝統的な家父長制・男性中心主義に加えて持参金の負担もあり、女児よりも男児を好む傾向に拍車をかけることになっている。

インドの紙幣
写真=iStock.com/Maksym Kapliuk
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嫁を生きたまま焼き殺す「持参金殺人」

そして持参金が少なかったからと夫やその家族からハラスメントを受ける女性も多い。

持参金で揉めて、結婚後に殺される「持参金殺人(多くは生きたまま火をつけられて殺される)」も一時ほど社会問題とはなっていないが、最悪だった2011年には年間8618人の女性が犠牲になった(インド国立犯罪記録局調べ)。

典型的な持参金殺人では、嫁に来た若い女性は、夫やその家族によって灯油やガソリンなどをかけられた後、火を付けられ、生きたまま焼き殺される。殺した側は、彼女が揚げ物をしている時に誤ってサリーに火がついたなどと供述し、事故を装うことが多い。

ちなみにインドでは持参金を要求することも支払うことも1961年以降、違法である。〔持参金問題などインドのジェンダーに関する情報は粟屋利江・井上貴子編『インド:ジェンダー研究ハンドブック』(東京外国語大学出版会)に詳しい〕

さて女性の数がこれだけ減れば、需要と供給の関係から結婚市場における女性の価値が上昇してもよさそうだ。だが、そう簡単には物事は進まない。むしろ収入の安定した職持ちの男性が少ないため、そうした男性に女性が集中する。

さらに女性が若い方が持参金の額を低く抑えられるため、法律で決められた18歳を下回る年齢で結婚させられる女性も少なくない。