「彼らはお前とお前の夫を殺すだろう」

カウサリヤはひどく傷ついて言った。

「1億ルピーくれると言ったって、シャンカールと別れる気はないわ」

彼女の父親は「我々の親戚は皆お前のことをとても怒っている。彼らはお前とお前の夫を殺すだろう。私は警告しているんだ」と言い、親戚らはダリトを侮辱する言葉を吐きながら帰っていったのだった。

そして、冒頭の2016年3月13日になる。カウサリヤとシャンカールが町に出かけ、新しいシャツを買った日だ。この日、ウドゥマライの町の中心で起こったことは、町の監視カメラに一部始終映っており、さらに周りの人々が携帯電話を使ってすべてを撮影し、それらはYouTubeにアップロードされた。

買い物を終えて歩いていた二人をバイクに乗った5人の男たちが襲う。男たちは二人を地面にたたきつけると、ナイフで切りつけ始める。シャンカールを切りながら、「パッラルの犬ころめ」と侮辱し続けた。

血だらけになった二人は病院に担ぎ込まれたが、シャンカールは死亡。カウサリヤも頭に重傷を負った。YouTubeにはまだ意識のあったシャンカールが何やら叫んでいる様子もアップロードされている。

そして頭に包帯を巻き、呆然ぼうぜんとベッドの上に座り込むカウサリヤの写真がインターネットのニュースサイトに掲載された。後に、二人を襲った男たちは、カウサリヤの両親が雇ったチンピラだということが判明する。

カウサリヤは言う。「両親は私をいつも愛してくれた。家族の中で私はペットみたいだった。でも今はあれが本当の愛情だったのかと思う。あれは私への愛情ではなくて、カーストへの愛情だったのじゃないかって。自分の娘とその夫を殺し屋を雇って殺そうとする家族って、一体、何ですか?」

家族の威信を守るために女性を殺害する「名誉殺人」

事件後数カ月経って、カウサリヤは彼女を支援するNGOの聞き取りに応じ、2時間以上をかけて事件のことを詳細に語った。ここまで紹介したカウサリヤの語りは、ウェブメディアに掲載されたインタビューを再構成したものである(インド版『ハフィントンポスト』2016年12月5日)。

池亀彩『インド残酷物語 世界一たくましい民』(集英社新書)
池亀彩『インド残酷物語 世界一たくましい民』(集英社新書)

カウサリヤとシャンカールの事件は、メディアで大きく取り上げられた。二人が襲われている様子が監視カメラに収められていたことや、病院に担ぎ込まれた後も携帯電話のカメラで撮影され続けていたことなどから、これは「劇場型殺人」とでもいえるものであったし、なにより「名誉殺人」として注目を集めたのだ。

名誉殺人(オナー・キリング)とは、家族に恥あるいは不名誉をもたらしたとされる女性(数は少ないが男性の場合もある)を、彼女の家族や親族が家族の名誉や威信を守るために殺害することである。

「恥」とされる行為はさまざまで、婚外の性交渉から親の決めた結婚を拒絶すること、さらにはレイプの被害者となることなど、本人の意思とは無関係のことまで含まれる。またLGBTQIの男性/女性が名誉殺人で家族に殺されることも少なくない。

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