「頭脳労働」でもカロリーは減る

だが、人間の体というのは個々のシステムが独立して働いているわけではない。エネルギーは常に出たり入ったりしている。“食べる”という行為により、エネルギーは体内に摂り込まれるが、便となって体から排出されるものもある。

今日、余分に食べた200キロカロリーは、燃やされてエネルギーに変えられるかもしれない。あるいは、便として排出されるかもしれないし、肝臓で使われるかもしれない。私たちは体内に摂取するカロリーのことばかり気にしているが、実は消費カロリーのほうが、はるかに重要だ。

体の消費エネルギーを決定づけるものは何だろう? 仮に、私たちが一日に2000キロカロリーの化学エネルギー(食べ物)を摂り入れるとしよう。この2000キロカロリーはどのような代謝活動に使われるだろうか? 可能性として挙げられるのは、次のようなものだ。

・熱の発生
・たんぱく質の合成
・新しい骨や筋肉の形成
・認知(脳)
・心拍数の上昇
・1回拍出量(心臓が1回の拍動で送り出す血液の量)の増加
・身体運動
・解毒作用(肝臓、腎臓)
・消化(すい臓、腸)
・呼吸(肺)
・排泄(腸および結腸)
・脂肪の生成

私たちは、摂取したエネルギーが燃やされて熱になっても、たんぱく質の合成に使われてもまったく気にしないのに、ことエネルギーが脂肪として蓄えられるとなると気になって仕方がなくなる。

だが、人間の体が過剰なエネルギーを消費する方法は、体脂肪として蓄えるほかにも無数にあるのだ。

「食べない人ほどやせにくい」はどの研究を見ても明らか

甲状腺、副甲状腺、交感神経、副交感神経、呼吸機能、循環機能、肝臓、腎臓、胃腸の機能のどれもが、ホルモンによってしっかりコントロールされている。体脂肪も例外ではない。

実際、人間の体には、体重をコントロールするためのシステムがいくつもある。

脂肪が蓄積するのは、実は「エネルギーの分配」に問題があるとされている。

たとえば、体温を上げるよりも脂肪の合成に使われるエネルギーのほうが多い、といったこともその要因のひとつだ。エネルギーがどう消費されるかはホルモンによって自動的にコントロールされるため、私たちが意識的にコントロ―ルできるのは運動によるエネルギー消費だけとなる。

「脂肪の蓄積にこれくらい、新しい骨の形成にはこれくらいのエネルギーを振り分けよう」と自分で決めることはできない。

こうした代謝過程は計測することができないため、ホルモンによって使われるエネルギーは「比較的一定している」と考えられてしまっている。特に、消費カロリーは摂取カロリーに関係なく一定である、と。

つまり、私たちはこのふたつを独立変数だと消去法的に思いこんでいるのだ。

例を挙げてみよう。あなたが一年に稼ぐお金(収入)と使うお金(支出)で考えてみる。あなたは一年に10万ドル稼ぎ、10万ドル使っているとする。もし収入が年間2万5000ドルに減ったら、支出はどうなるだろう? それでも毎年10万ドル使い続けるだろうか?

あなたはおそらく、すぐに破産してしまうようなことはせずに、代わりに、年間の支出額を2万5000ドルに抑えて予算のバランスをとろうとするはずだ。この場合、収入と支出は、一方の減少がもう一方の減少を直接引き起こす従属変数だといえる。

この理屈を肥満にも当てはめると、摂取カロリーを減らして減量できるのは、消費カロリーが変わらない場合だけということになる。

だが実際は、摂取カロリーを急激に減らすと、体はエネルギーの収支のバランスをとろうとして消費カロリーを急激に減らすだけで、体重の減少には直接つながらない。

これまで行われてきたカロリー制限の実験では、まさにこのことが証明されてきたのだ。