ブランド力を高める広告とはどんなものか。PRストラテジストの本田哲也さんは「業界内で争うことより、社会全体に働きかけることを目指したほうがいい。P&Gのヘアケアブランド『パンテーン』の事例が参考になる」という――。(第1回/全2回)

※本稿は、本田哲也『ナラティブカンパニー:企業を変革する「物語」の力』(東洋経済新報社)の一部を再編集したものです。

女子高生
写真=iStock.com/metamorworks
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ストーリーの主役は企業、ナラティブの主役は生活者

「ナラティブスクリプト」とは何か? さて、5つのステップの中で最も重要な話――ナラティブスクリプトの作成、すなわち「ナラティブを描く」ことについての話を始めよう。

「物語的な構造」であるナラティブを「描く」とは、いったいどういうことなのか。いささか抽象度が高い話に聞こえるが、まずここでプロローグで説明したことの一部をおさらいしておこう。

「ナラティブとストーリーの違い」だ。

ナラティブとストーリーの違い
出所=『ナラティブ・カンパニー』
【図表】ナラティブとストーリーの違い

ストーリーにおける主役が企業やブランドなのに対して、ナラティブではあなた(生活者)を含むマルチステークホルダーが演者=物語の登場人物となる。ストーリーには「起承転結」があって必ず終わりが来るが、ナラティブは現在進行形であり未来をも包含するので「終わり」という概念がない。

そして、ストーリーの舞台が業界や競合環境なのに対して、ナラティブの舞台は「社会全体」だ。ここではストーリーとの違い、という観点から解説しているが、この3要素こそが、すなわちナラティブというものの特性なのだ。

言い方を変えれば、ナラティブスクリプトの作成、ナラティブを「描く」とは、どのような「脚本」をこの3つの要素をベースに仕立てるかだ。

社会を舞台に、演者たる当該企業とステークホルダーがどのような物語を、永続的に紡いでいくべきなのか。ナラティブを描くことは、映画やドラマにおける脚本家の仕事に近いかもしれない(ちなみに僕自身は、半ば冗談で、「自分の仕事はナラティブ作家」だと仕事仲間に吹聴している)。

ここでは、その具体的な手法論である「ナラティブスクリプト」についても解説する。