メンタルの弱っている人を救い出すためにはどうすればいいのか。韓国で投薬に頼らない心理療法に取り組む精神科医のチョン・ヘシンさんは「心臓の止まった人の胸を圧迫するように、『私』の核に当たる場所を強く圧迫する必要がある。そのために有効な問いかけがある」という――。

※本稿は、チョン・ヘシン『あなたは正しい』(飛鳥新社)の一部を再編集したものです。

カウンセラー
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自殺から女性を救った「心理的CPR」

質問①:突如意識を失って倒れ、心臓が止まった人を見かけたら?
答え①:心臓に拍動が戻ってくるまで、胸の中央に両手を置き規則的に強く圧迫する。
質問②:「私」という存在が擦り減って、今にも消えそうな人を見かけたら?
答え②:「私」という存在が蘇生するよう、その核に当たる場所を強く圧迫する。

私は、これを、「“私”の蘇生術」あるいは「心理的CPR」と名づけた。わかりやすく言えば、その人にとっての「私」という存在を刺激し、「自分」の話ができるよう、その人の心を適切に刺激してあげるのである。

ある会合で30代前半の女性と向かい合って座る機会があった。よく笑ううえに物腰も洗練されていた。笑い方にやや形式的なところはあるにせよ、彼女はとても華やかで、魅力的な人物だった。

話の途中、彼女に「最近、心の調子はいかがですか」と尋ねた。その時点で彼女は、私の職業を知らなかったのだが、姿勢を正し、少し間を置くと、「実は……」とためらいながらも、3日前に自殺しようとしたことを打ち明けた。まさかと思ったが、どうやら事実のようだった。

そこで私は、そのまま彼女から視線をそらさず話を聞いた。自分の意見を差し挟むことなく、「ああ、そんなことがあったの」とうなずきながら彼女を見つめ、時々は、彼女がその時どのようなことを思っていたのか尋ね、それに彼女が答えると、さらに耳を傾けた。その間、彼女は私に頼りきっている様子だった。

特別な助言や慰めの言葉は要らなかった。私はその後も彼女と2、3度会い、話をした。今では、彼女の問題のすべてが解決したわけではないけれど、彼女の自殺願望だけは少なくとも消えて、過去の自分を受け入れ、新たな一歩を踏み出そうとしている。