傷ついた心を癒すためには、どうすればいいのか。韓国で投薬に頼らない心理療法に取り組む精神科医のチョン・ヘシンさんは「心を治療する最大の武器は共感力だ。ただし、それは『ひたすら話を聞いて肯定する』というものではない」という――。

※本稿は、チョン・ヘシン『あなたは正しい』(飛鳥新社)の一部を再編集したものです。

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共感力があれば人間関係に悩まずラクになる

私はいろんな肩書で呼ばれるが、その中でも最も気に入っているのは「治癒者」という呼び名である。おもはゆい気もするが、実際そう呼ぶしかないだろう。「治癒者」としての私がそなえる最大の武器は、「共感」である。

共感には、とても大きな力がある。石のようにびくともしなかった人の心を、動かすことができるのだ。人命にかかわる差し迫った状況にも有効だ。心を治癒する方法としては、共感がすべてとさえ私は思っている。傷ついた心を持つたくさんの人たちとの間に培った経験から、私が得た結論である。

共感こそがすべて。これは、「人は必ず死ぬ」という命題と同じくらいに真実である。私は、それほど共感というものに強い信頼を寄せている。

共感に対する誤解と偏見は、数えきれない。時間をかければ、共感の効果を実感できるかもしれないが、毎日忙しくて時間に余裕のない現代人にとって、共感のような一対一のアナログな意思疎通なんてまどろっこしい。それよりもっと効果的な手段があるのではないだろうか。そんなふうに焦れてしまう人もいるかもしれない。

結論をいうと、人の心を動かす力、傷ついた心を治癒する力のうち、最も強くて効率がいいのが「共感」なのである。共感は、何十年にもわたって巨額の費用を投入し、最先端医学、薬学、脳科学、生理学、遺伝学、生物学などの粋を集めて開発された、いかなる抗うつ剤よりも優れた特効薬である。しかも、実際の薬物とちがって副作用がない。圧倒的な効果があるのに副作用がないのだから、薬物と比較することすら馬鹿げている。

たとえるなら、抗うつ剤などの薬物は、喉の激しい渇きのために苦しんでいる人がいる町の入り口で、散水車から水を散布するイメージだ。一方で、共感は、同じ状況で喉が渇いた人に近づき、木の葉が浮いたコップ一杯の水を直接渡すイメージとでもいえばいいだろうか。

共感力を身につければ、生きることが楽になる。人間関係における無駄なエネルギーの消耗を大幅に防ぐことができるからだ。